ファイナンス 2024年9月号 No.706
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ファイナンス 2024 Sep. 49 店先に貼られてある送金事業者のステッカーを見て、どの事業者のサービスを利用できるかが判別可能。写真3:パリの街中で見かける送金代行を営むショップ おわりにある。近所のフィリピン食材店は、特に平日の夕方や週末に行列が作られ、その行列の先を覗くと、狭い店内を進んだ奥に送金代行のための個別カウンターがあることに気づく。こうした、送金サービスのカウンターを備えたフィリピン食材店は近所にたくさんある。その他、携帯電話をはじめとするIT機器を扱う小スペースのショップでも送金代行を営むお店は多い。いずれも非常に小さな店構えであるがゆえ、所狭しと並べられた商品と一緒に、送金や両替が同じ場所で行われていることに大きな関心を持っていた。百聞は一見に如かずということで、近所のフィリピン食材店での送金受取を試してみた。まず、大手送金事業者のアプリでアカウントを作成し、送金メニューを選ぶ。送金の受取人が住んでいる国を選ぶと、お金の受取方法のオプションが示される。例えば、受取人がA国に住んでいるとすると受取方法は受取人の銀行口座への入金か送金代行が行われているショップ等のカウンターでのキャッシュの受け取り(cash pickup)の2種類しかないが、受取人がB国に住んでいると受取人の銀行口座への入金やcash pickupだけではなく、デビットカードやモバイルウォレットへの入金、更には受取人の住所への配達というオプションまで表示される。つまり、送金の受取人が居住している国によって受取方法のメニューは異なり、また、送金額が大きくなれば、マネロン等への対策上、受取方法のオプションは限定される。私は、送金事業者のアプリを通じ、フランスに住む受取人(自分)の氏名を入力し、受取方法は代理店でのcash pickupを選び送金してみた。Cash pickupを代行する事業者のステッカーが貼ってあるお店(送金事業代理店)であれば、送金指図をしてから数分もかからず、フランス全土のいずれの代理店でも送金が受取可能となる。さて、いよいよ送金の受け取りである。近所のフィリピン食材店に行ったものの、あいにく送金サービスを利用する人で混み合う時間と重なってしまった。送金カウンターに続く列に並んでいる間、食材店に並べられた見慣れない品々を眺め、また、どこにメニューがあるのかわからなかったが、常連のお客さんたちが、店内で即席で作られる美味しそうな食べ物・飲み物を注文し、買っていく姿を見て待つ時間は楽しい(送金カウンターのスペースの中にまで、手作りの食材が並べられている)。カウンターに着いたら取引番号を伝え、身分証の提示と電話番号を伝えるなどして、難なく現金を受け取ることができた。こうした送金サービスを利用するメリットは、コストやスピード、手続きの手軽さにあろう。他国への送金であっても、たった数分で相手は送金を受け取ることが可能である。特に、多額の送金を必要とせず、小規模な送金を繰り返し行う必要がある場合、送金や受取の手間がかからず、手数料も安いサービスは送金者にとって非常に役立つサービスであると実感した。2015年に発生したパリ同時多発テロ事件は、多くの人々にとって癒えることのない悲劇をもたらした。本年春にパリで行われたサッカー・チャンピオンズリーグの試合に対して過激派組織「イスラム国」によるテロの予告があったように、パリでは、常に、テロリストに狙われているとの緊張感を感じる。マネロン・テロ資金対策の使命は、野心的かつ効果的な国際基準の策定とその実施を追求することにより、社会に安心・安全な暮らしをもたらすことであると解釈している。他方、進化するテクノロジーを活用し、送金や決済を効率的に行うための金融サービスの発展は不可欠である。時に相反するそれらのテーマの間で、これからも様々な場面や土地で“ペイメント”について考えてみたい。

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