ファイナンス 2024年9月号 No.706
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写真1:賑わうマルシェの風景 プリペイドカード 46 ファイナンス 2024 Sep.パリでの生活において、現金が多用される代表的な場面はマルシェでの買い物ではないだろうか。店舗により、一定の金額以上の購入でカード支払いが可能な店舗はあるものの、マルシェでは現金のみ使用可能なお店が多い。我が家でも、ATMを利用する一般的な機会は、マルシェでの利用にあわせて必要な現金をATMで引き出す場合である。カードでの支払いが多くの割合を占めるフランスでも不測の事態のために現金を持ち歩いておいた方が便利なことは間違いなく、また、街角で出会うストリートパフォーマーに心動かされ、感謝の気持ちをと思っても現金がなければ気持ちを表すことはできない。パリ市内でのバス乗車時の出来事。シンガポールやロンドンとは異なり、パリの公共交通機関では、改札にてクレジットカードやデビットカードをかざしてタッチレス決済するノンストップ方式はまだ導入されておらず、チケットを購入するかチャージ式の専用カードでの乗車が必要である。ある時、バスに乗ってから、チャージ式のカードに残高が不足していることに気づいた。幸い、その日はポケットに2€コイン2枚を入れていたので、咄嗟に運転手にその2枚のコインを渡したのだが、これにより1.5€のお釣りが発生してしまった。運転手は小さなお財布を取り出し、その中から必死にお釣りを探し始めてくれたのだが、どうやら0.5€に合う小銭が見つからない。パリでは、小銭のお釣りを求めることは、求める方が悪いという感覚にかられるので、(そして、何より早く運転に集中してほしいので)お釣りは不要ですよ、と運転手にお伝えしたものの、その運転手は、車内マイクで他の乗客の方に、「0.5€の小銭もってる人、両替できませんか」と呼びかけてくれた。結局、乗客の中にはその呼びかけに対応できる方はいなかったが、その後も運転手は小銭を探しつづけてくれ、どこから探したのか、いつの間にか0.5€コインを見つけて渡してくださった。また、カード vs 現金で気にすることは、私の行きつけのパリの理髪店では、約3回に一回の頻度で「今日はカード決済端末が壊れているから。キャッシュ持ってなければ、すぐそこのATMでお金下ろしてきて」と言われ、その際には、いったん店を出てATMで現金を引き出してからお店に戻って支払いを行っている。あまりの頻度の高さに、本当に壊れてるのかなと少し疑いの気持ちも湧いてきたところである。マネロン等のリスクを論じる際、プリペイドカードについてはクレジットカードやデビットカードと議論を異にする部分は多い。一口に「プリペイドカード」といっても、それが表す対象は様々で、特定のサービスやmerchantに対してのみ利用可能な商品ギフトカードのような性格のものから、広くあらゆる支払いに対して使うことができるもの、ATMでの引き出しも可能なプリペイドカードまで千差万別といえよう。利用目的も様々で、例えば生活費のコントロールのため食費や日用品の支払いにはクレジットやデビットカードではなく、特定のプリペイドカードに一定額を移してその金額内で使うというアイディアもあれば、親がプリペイドカードを子どもに持たせ、定期的にプリペイドカードにチャージしてその範囲内で子どもにお金を使うことを許容するという使い方もできる。一般に、特定の銀行口座と紐づいて利用額が直接その口座から引き落とされるものがクレジットカード・デビットカードであるのに対し、特定の口座に紐づかず、カードにチャージされた金額の範囲内だけで利用できるのがプリペイドカードであるという整理ができ、そうした性格の違いを利用して両者を使いこなしている方は、少なくないのではないだろうか。FATFは2013年6月、プリペイドカードに伴うマネロン等のリスクに対応するためのガイダンスペー

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