AIの隆盛がさまざまな業界に入り込み、1年、いや場合ファイナンス 2024 Sep. 1 によっては数ヶ月という短い周期で、転換点となるほどに影響力の大きな技術が発表されている。そうした昨今、筆者が関係するプロジェクションマッピングなどの映像や様々なイベント・エンターテインメント業界においても業態の変容、表現の変化を多々感じ、突きつけられている。私が2012年からプロデュースしているプロジェクションマッピングの国際大会(現在は光の祭典「TOKYO LIGHTS」内で開催)や、世界中で行われている他の光の祭典・国際大会にも審査員などで参加し、その過程の中で表現の変化を目の当たりにしてきた。プロジェクションマッピングの黎明期には、多くのクリエイターがさまざまに手探りし、一部の成功表現をみんなが模倣していたが、徐々に独自の表現を確立したものが存在感を示す。3DCGやそのライティング技術に始まり、コントラストを出すために白黒に特化した表現、プロジェクターの高輝度化によって色の再現性が高まると、今度は色彩の強さを持った作品が存在感を出す。さらには特殊なエフェクトやプログラミングを利用したデジタルを感じる表現、センサーなどを利用したインタラクティブ性やリアルタイム映像生成、照明やレーザーと連動させたもの、そして最近では生成AIを作って予期しなかったビジュアルや動きを生み出し、そこからの作品化や個性化を求める動きが始まっている。クリエイターは非常に時代に敏感で、そして影響を受けやすい職業のひとつである。特にビジネスと絡むフィールドではそれが顕著であり、常に新しさや個性といった他との違い、クオリティの向上、マーケティングや流行とのチューニング、ハイスペックなPCやグラフィックボードを使用した作業を取り入れ、時間の圧縮も必要となる。さらにはそこへ投資しながら、技術・表現のプレゼンテーションや金額調整とも戦い続けねばならない。そんな中でAIの隆盛はある種の救世主となる一方、不要な領域も多々生み出してしまう。しかし、こうした変容は最近になって突如起こったことではなく、実は過去から時代の流れの中で連綿と続く事象であり、取捨選択をしていくことは逃れられないリアルだろう。この変化と進化が加速する状況下において、重要なのは柔軟性とあらゆることへの感度、関心力や探究心であり、つまりはクリエイター的な想像力と創造力だ。昨今ひとつの職業や業務を一生涯続けるという考え方はほぼ失われ、複数の技術や職能を持つことが当然の時代となっている。さらには収入よりも「好きなこと」や「社会的意義」を重視する方向へシフトしており、クリエイターに限らず、誰にとっても常に現れ続ける新しいモノや価値感と向き合い、真偽や自分との相性、時代との親和性、未来性などを考え続けねばならない。人間が生きる上で環境や課題に対応し、しなやかに変化・順応をしていくことは、次への進化につながるステップだろう。コロナのパンデミックでも大きな変化を求められたが、それと同時に大きな進歩や環境改善、価値観の変化を感じた人も多いはずだ。クリエイティブなセンスとは、クリエイターだけが持つ神が与えた特権的なものではなく、さまざまな課題に向き合い対応していく能力であり、人間が変化する環境の中で生きるための重要な「育てるべきセンス」と言える。課題を探し出し、それに向き合いながら、より良い社会や環境を目指すことは、前向きに未来を求める何よりも美しいクリエイティブな姿勢ではないだろうか。2014年度の国際大会優勝作品ムービングライトやレーザーを交えたハイブリッドな作品東京都庁での常設企画「TOKYO Night & Light」週末には約1万人もの人が訪れる新たな観光名所となっている。カラーズクリエーション株式会社 代表取締役 (一財)プロジェクションマッピング協会 代表理事 クリエイティブディレクター、映像作家、空間演出家石多 未知行変化する時代のクリエイティブなセンス 〜進化する表現と、未来を探求するクリエイターたち〜
元のページ ../index.html#5