FOREIGNFOREIGNWATCHERWATCHER*1) 本稿の内容は、筆者の個人的な見解であり、筆者の所属する組織を代表するものではない。誤りがある場合はすべて筆者の責任である。FATF Policy Analyst ■舘 一生*1 44 ファイナンス 2024 Sep.FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)は、マネー・ローンダリング(以下「マネロン」という。)やテロリスト・テロ活動につながる資金の供与、そして、大量破壊兵器の拡散につながる資金供与を防止するための国際基準の策定と、基準実施の推進を目的とした組織であり、事務局はパリのOECD内部に置かれている。*1筆者はFATF事務局にて、マネロン等対策のために送金に適用される基準の改訂作業に携わっており、それゆえ、着任以降、日常生活でも旅行中でも常に“Payment(ペイメント)”という言葉が頭にちらつき、様々な“Payment(ペイメント)”行為に関心を抱いて生活している状況である。ペイメントについて、海外生活で体験したことや感じていることをお話させていただく前に、そうした視点の背景となる、FATFが取り組んでいるプロジェクトについて紹介させていただきたい。計40から成るFATF勧告のうち、勧告16は、金融機関が送金者の依頼に基づき送金を行う際、マネロン・テロ資金対策のためにとるべき措置を定めている。具体的には、顧客から依頼を受けた送金について、送金元となる金融機関(「仕向金融機関」とも呼ぶ。)は、送金者と受取人に関するどのような情報を送金メッセージに含めて、送金先となる金融機関(「被仕向金融機関」とも呼ぶ。)に伝達しなければならないか、そして、その送金メッセージに含まれた情報をもとに、中継金融機関を含め、送金に関わる金融機関はどのようなことを行わなければならないか、を定めた基準である。そして、送金メッセージに含まれるべき情報が不足している場合やマネロン等の疑いのある取引は、リスクに応じ、取引の中断・拒絶を含めた適切な処理を行うことを求めている。当該基準(FATF勧告16)は当初、2001年の米国同時多発テロの発生を受け、テロ資金対策のための基準として策定されたものである。それから20年以上が経過し、人々が行う支払いや送金の様相はまったく異なるものになった。例えば、20年前には、スマートフォン片手に送金を手軽に行うことはできなかったし、現金やクレジットカード、公共交通機関のチケットをそれぞれ携帯せずとも、デジタルウォレットを利用してノンストップで支払いを行うことはできなかった。また、オンラインのマーケットプレイスに個人が売り主として参加し、モノやサービスを売ってその対価を受けるという行為は、現代ほど広く一般に行われれてはいなかった。なぜ、当該基準が策定されてからの発展を想像することが意味を持つか。それは、この20年の間でペイメントに関わる多くのことが変わり、人々が行う支払い・送金とそれに応じてお金を受け取る行為の利便性が大きく高まった一方、ペイメント行為をサポートする様々なツールやサービス業者が出現し、銀行間のみでやり取りされる旧来の送金を想定した国際基準ではマネロンやテロ資金供与を企図した送金に有効に対応できないのではないか、言い換えれば、これまで適用されてきた基準が現在世界中で行われている多様なペイメントの在り方に沿ったものであるか、という問題海外ウォッチャーパリの生活、そしてマネロン・テロ資金対策
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