ファイナンス 2024年9月号 No.706
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*15) ただし、リテンション方式の下には、現時点ではトランスペアレンシー方式しかないので、リテンション方式を採用すると、トランスペアレンシー方される」と説明されます。https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market-system/siryou/20220425/02.pdf式で実施することになります。*13) POT方式は、あくまで証券会社が投資家の需要を共有して販売する方式であり、理論上は、トランスペアレンシー方式を取らないことも可能です(つまり、理屈をいえば、証券会社が需要情報をシェアして販売するものの、発行体にはどの投資家が購入したかは開示しないということも考えられます)。*14) 金融庁資料では「主幹事が意見聴取した投資家の需要を共通のPOT(壺)に集約し、主幹事及び発行者と情報共有する。原則、投資家の名称も共有2.5  POT方式とリテンション方式:メリットとデメリット3.リテンション方式とPOT方式の詳細3.1 リテンション方式 28 ファイナンス 2024 Sep.発行体にどの投資家が発行した債券を購入したかを開示するトランスペアレンシー方式が2021年に導入されました。例えば、証券会社が社債を売り切れなく在庫として抱える場合、証券会社が当該債券の保有者となることが確認される形で、発行体は募残を認識することになります(もっとも、投資家情報は起債時のみ共有されるため、その後債券が満期保有されずにセカンダリー市場で売買されていく場合は、どのような投資家が保有しているのかを追うことは出来ない点に注意してください)。なお、POT方式とトランスペアレンシー方式は、募残の問題を解消するものとして報道されることが少なくありませんが、両者は、基本的には、別の概念である点に注意してください。筆者の理解では、POT方式が普及するタイミングと軌を一にしてトランスペアレンシー方式が導入されたため、その両者が混合されることもあります*13。もっとも、POT方式とは、あくまで証券会社間で投資家の情報を共有して販売する方法であり*14、トランスペアレンシー方式は、発行体が投資家の需要等を把握するための自主規制のことです。また、リテンション方式は以前から用いられていたことから、その前の方法を区別して、トランスペアレンシー・リテンション方式という表現がなされることもあります。実際、実務家の資料などでは、リテンション方式の下にトランスペアレンシー方式がぶら下がっているという整理がなされることも少なくありません*15。日本の債券市場では、現時点で、POT方式とリテンション方式の両方が併用されています。それではこのPOT方式とリテンション方式にはどのようなメリットとデメリットがあるでしょうか。発行体からみたPOT方式の良さは、A証券とB証券で迷う必要がなく、このディール全体に対して、引受を任せることが可能であることです。投資家からみても、A証券とB証券別々に発注するという必要性はなく、案件に対して注文を出すということになります。その一方で、証券会社間の販売力に差がある場合など、POT方式よりリテンション方式の方がよい場合もあります。例えばもし証券会社Aが投資家の注文を大量に取ってきたとしても、POT方式であると、そのディール全体での成果という形で整理されるため、証券会社Aとしての個別の販売実績を示しにくいともいえます(であるがゆえ、各社はそれほど力を入れて販売をしないという見方がされることもあります)。起債においてPOT方式とリテンション方式のどちらが用いられるかは、基本的に発行体の希望によって決められますが、両手法とも一定のメリットとデメリットが存在することから、現状では両手法が併用されています。筆者の理解では、大手の機関投資家を中心に販売するような債券の場合、POT方式が採用される傾向があります。一方、例えば、地方債のように地域金融機関への販売が重要な場合や、非金融機関への販売が重要な場合などは、証券会社が有する支店網等で販売力に差異が生まれ得るため、リテンション方式が採用されるという意見もあります。ここから、日本証券業協会の資料を用い、より詳細に、リテンション方式とPOT方式の説明をします。まずは、BOX 1 投資銀行と投資銀行部門投資銀行という表現は、よく用いられるものの、定義が曖昧な概念の一つです。投資銀行部門や投資銀行ビジネスは、図1で示す通り、主に発行体サイドに立ち、株式や債券の引受という観点で資金調達を助けたり、M&Aアドバイザリーなどのサービスの提供を行う機関や業務そのものを指します。もっとも、投資銀行という場合、証券会社そのものを指す場合も多く、証券会社と語句ごと入れ替えても問題ないケースが少なくありません。

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