ファイナンス 2024 Sep. 27(出所)筆者作成発行体はPOTシステムを見ることが可能証券会社がPOTシステムに需要情報を入れることで情報を共有する*9) 例えば、金融ファクシミリ新聞「BPCE債は6年限で合計1161億円に」(2018/1/19)などを参照。*10) 「社債券等の募集に係る需要情報及び販売先情報の提供に関する規則」を制定し、2021年1月1日に施行されました。*11) この段落での記載は下記を参照しています。 *12) 発行体の中には、投資家に販売されなかったとしても(募残があったとしても)、低い金利(高い価格)で発行できればよいという考え方もあります。https://www.jsda.or.jp/about/public/kekka/■les/201117_sankou_shasaihakko.pdfPOTシステム証券会社発行体証券会社AB 図表3 POT方式のイメージ債券発行におけるリテンション方式・POT方式・トランスペアレンシー方式2.3 募残の問題とPOT方式の普及2.4 トランスペアレンシー方式あるディールに2億円注文するという形になります。ちなみに、引受において、誰にどれくらい債券を販売するかをアロケーション(配分)といいます。引受では、発行体が債券を発行し、証券会社がそれを投資家に販売しますが、もちろん発行体は低い金利(高い価格)で当該債券を販売(発行)したいので、証券会社は、低い金利(高い価格)で購入したい人から順に配分していきます。当該債券は、その債券を高く評価する投資家にアロケートされるということになります。ここのプロセスは第3節で具体例を用いて説明します。債券発行におけるPOT方式そのものは、日本では2017年ごろから円建外債の発行時に導入され*9、その後、徐々に社債や地方債等に普及し始めました。筆者の理解では、POT方式が普及した背景は、引受において募残の問題が指摘されたことがあります。募残とは、証券会社が引き受けた債券を投資家に販売しきれず、証券会社のトレーダーが在庫としてやむをえず当該債券を取得する現象です(トレーダーによるマーケットメイクの詳細は、服部(2023)の3章を参照してください)。筆者の理解では、募残の問題は、2015年くらいからメディアなどを通じて指摘され始めました。リテンション方式は、各証券会社独自の販売力が問われる側面もあるほか、他の証券会社が有する投資家の需要の情報量が少ないため、全体の需要を見誤るリスクが相対的に高まります。POT方式であれば、各証券会社で投資家の需要を共有して販売を行うため、上述の問題を解消することが可能になるわけです。また、上記を問題意識に、2021年にトランスペアレンシー方式の導入がなされました*10。トランスペアレンシー方式とは、発行プロセスの透明性を確保するため、証券会社に対して、投資家の名前に加え、需要額や購入額について、発行体に提供することを求める制度です。具体的には、発行体が債券を発行するにあたり、マーケティング期間においてどのような投資家が当該債券を需要しているかや、最終的に、どの投資家が当該債券をどの程度、購入したかを、証券会社が開示する仕組みです。起債までの時系列としては、まず主幹事証券会社を軸に、発行される債券の需要を投資家に聞くプレ・マーケティング期間があり、それを受けて債券の条件が決められ、実際に販売がなされるという手順になっています*11。発行体は発行前においても主要投資家分は実名で報告を受けることができ、さらに、販売後にも主要投資家分は実名で発行体に報告されます。特にPOT方式の場合、投資家の需要はPOTシステムを通じて証券会社間で共有され、発行体もこれを閲覧することで、販売前にどのような需要があるかの概要を把握することができます。トランスペアレンシー方式の導入の背景には、前述の募残の問題があります。証券会社からすると、募残が出ることは自らの販売力が弱いことを示す可能性があるため、発行体に募残の有無を開示するインセンティブがありません。このため、発行体としては実際に需要があったのかを把握したいものの、その把握ができませんでした*12。前述のとおり、2015年ごろから募残が看過できないという問題が議論され、上述の問題を解消するため、
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