ファイナンス 2024年9月号 No.706
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(出所)筆者作成発行体発行したい金利を提示を担うマーケット部門を前提とした説明をしています。なお、債券については、個人向け社債や個人向け地方債も存在する点に注意してください。投資銀行部門調整証券会社内シンジケート部(出所)筆者作成調整マーケット部門発行体証券会社が投資家の需要情報を報告証券会社購入したい金利を提示投資家証券会社AB*7) 投資家に販売するセクションにはリテールセクションもありますが、債券は機関投資家に販売することが多いので、ここでは機関投資家向けサービス*8) POT方式ではシステムを使わず情報共有がなされる場合もあります。図表1 引受(主幹事方式)のイメージ図表2 リテンション方式のイメージ 26 ファイナンス 2024 Sep.などを通じて投資家に伝えられます*7。実際のやり取りにおいては、投資銀行部門とマーケット部門の間にシンジケート部が入り調整します。投資銀行部門とマーケット部門は前述のとおり、発行体と投資家の利益相反があるため、直接やり取りをすることはない形がとられています。この関係は図表1の通りです。このような情報隔離は「チャイニーズ・ウォール」と呼ばれています。実際の引受にあたっては、複数の証券会社が協力することが少なくありませんが、事務やドキュメンテーションの作成、販売などの役割を中心的に担う証券会社を「主幹事証券」といいます。主幹事証券というと1社しかいないように感じるかもしれませんが、主幹事証券が複数存在することも少なくなく、さらに、その中でもまとめ役の役割を果たす証券会社を「事務主幹事証券(トップレフト)」といいます。主幹事証券以外に、実質的に引受責任のみを分担する「引受証券」などもあります。2.2 リテンション方式とPOT方式のイメージ本稿で注目したいのは、証券会社が引き受けるうえで、当該債券をどのように証券会社各社の中で割り振って販売するかという点です。ここではリテンション方式とPOT方式の概要を議論したうえで、その詳細について3節で議論するという流れで説明をします。例えば、ある企業が100億円の社債を発行するとします。この100億円の社債を証券会社が引き受けるとして、リテンション方式とPOT方式の違いを考えます。まず、リテンション方式の場合、例えば、A証券会社が50億円、B証券会社が50億円を引き受けて販売します。言い換えれば、A証券とB証券は協力せず(いわば競合関係となり)、それぞれ自分の引受分を頑張って販売します。投資家からみると、A証券とB証券から同じ債券の営業を受けるという形になります。そのため、一例として、投資家がA証券に1億円分、B証券に1億円分同じ社債を注文するということがあり得ます。一方、POT方式の場合、ある企業が100億円の社債を発行するとして、A証券とB証券で共同してこのディール(案件)を受けるという形をとります。すなわち、A証券とB証券は協力して社債を販売するので、A証券とB証券は投資家の需要情報を共有する必要があります。POT方式は、POTシステム*8を通じて、投資家の需要をPOT(壺)のような形で共有するがゆえにPOT方式とよばれます。投資家としても、先ほどのようにA証券とB証券という分け方をせずに、

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