ファイナンス 2024 Sep. 25 *1*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。また本稿は、本稿で紹介する文献の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 東京大学 公共政策大学院 特任准教授*3) これを「残額引受」といいます。*4) 国債は入札により発行がなされています。詳細は服部(2023)を参照してください。国債以外でも、地方債の発行など入札方式が用いられることもあります。*5) 下記を参照。 *6) 地方債で用いられる主幹事方式については石田・服部(2024)を参照してください。https://sites.google.com/site/hattori0819/東京大学 服部 孝洋*2POT方式は2020年ごろから普及してきた方式ですが、ほぼ同じ時期に、トランスペアレンシー方式も導入されました。トランスペアレンシー方式とは、起債における投資家の需要をプライシングの期間中、さらに、発行後に発行体に共有するという仕組みです。本稿ではPOT方式とリテンション方式に加え、トランスペアレンシー方式の説明も行います。なお、本稿は債券についての基礎知識を前提として1.はじめに本稿では、債券を発行する際に用いられる引受(アンダーライティング)の詳細を解説します。(国債などを除く)債券発行では、証券会社が投資家に販売するために債券を取得し、仮に投資家に販売できない場合には残りを取得する*3、「引受」が一般的に用いられます*4。本稿では証券会社が投資家に債券のマーケティングを行う上で用いられるリテンション方式とPOT(ポット)方式に焦点を当てます。歴史的には、我が国の債券市場では、リテンション方式が長年使われていました。その一方で、近年、POT方式も普及し始めています。リテンション方式とPOT方式の違いは、引き受けた債券を、どのように証券会社の中で割り振って販売するかです。リテンション方式であれば、各証券会社がそれぞれに定められた販売すべき額(引受額)をそれぞれの裁量で販売する一方、POT方式では各証券会社が投資家の(当該債券に対する)需要を共有して販売します。欧米ではPOT方式が主に用いられていますが、我が国では両手法とも一定のメリットを有することから、ケースバイケースで用いられています。いますが、日本国債を軸とした債券の基礎知識は服部(2023)などを参照してください。筆者が記載してきた債券入門シリーズは、ウェブサイトにまとめて掲載してあります*5。発行体としてはできるだけ低い金利で調達したい(高い価格で債券を発行したい)一方、投資家はできるだけ高い金利で運用したい(低い価格で債券を購入したい)と考えています。その両者が折り合える価格を証券会社の中で調整します。上述の通り、投資家と発行体の利益はバッティングすることから、証券会社の中には、発行体向けにサービスを提供する部門(投資銀行部門)と、投資家向けにサービスを提供する部門(マーケット部門)があります(図表1を参照)。実際の引受では、投資銀行部門におけるキャピタル・マーケット部(資本市場部)などが企業や自治体など発行体(赤字主体)の資金調達のニーズをくみ取り、発行の手続きをします。その情報は一定のルールに則り、マーケット部門のセールス2.POT方式とリテンション方式2.1 引受におけるプライシングのイメージ前述のとおり、国債を除く大部分の債券は、引受(アンダーライティング)と呼ばれる方法で発行されています。引受では、発行体が債券を発行するうえで、証券会社が投資家に販売することを目的として債券を取得して販売する(仮に販売できなければ証券会社が取得する)という形が取られます(この方法は、例えば地方債では「主幹事方式」などと呼ばれます*6)。債券発行におけるリテンション方式・ POT方式・トランスペアレンシー方式
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