ファイナンス 2024年9月号 No.706
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ファイナンス 2024 Sep. 15 *16) 金子宏『租税法』(第24版)によれば、租税犯には国家の租税債権自体を直接侵害する脱税犯と、国家の租税確定権及び徴収権の正常な行使を阻害する危険があるとされる租税危険犯に分かれるとされているが、いずれの類型にせよ、特定の国家(地域)との結びつきが特に強い犯罪類型であることに変わりはないと考えられる。*17) 同報告書自体については、他の記事で扱われている。例えば、国税当局の受け止めにつき、大柳(2023).「ファイナンス」令和5年10月号. *18) OECD(2020), Tax Administration3.0: The Digital Transformation of Tax Administration, OECD, Paris. http://www.oecd.org/tax/forum-on-tax-administration/publications-and-products/tax-administration-3-0-the-digital-transformation-of-tax-administration.htmhttps://www.mof.go.jp/public_relations/■nance/202310/202310e.pdf租税犯罪等タスクフォース(TFTC)の概要と国際租税犯罪対策の展望武田部長と米・内国歳入庁(IRS)のGuy Ficco査察部長(Chief of Criminal Investigation)武田部長とシンガポール内国歳入庁(IRAS)のHan Hsien Low部長(Assistant Commissioner, Investigation &Forensics Division)にドメスティックなものである*16。他方で、経済取引のグローバル化に伴い、租税犯の立証に必要な証拠が海外に存在することも有り得るし、また嫌疑者が、他国に課税権があるように仮装したり、国外に逃亡し、調査自体を免れる等して租税当局の手から逃れようとすることも生じ得る。そのため、海外当局との連携・協力は、日本の査察行政上非常に重要なものであり、これは各国にとっても同様であると考えられる。悪質な租税犯を追及する上での国際協力は、(リソースの問題等はあるものの)基本的にはプラスサムのゲームで、租税犯罪対策に「穴」のない世界を作ることが、結果的に自国の租税犯則調査の効率化にもつながると言って良いだろう。その意味で、TFTCの意義は今後も高まりこそすれ、低下することは無いと考えられる。中長期的な日本の査察行政にとって、租税犯罪対策に係る国際的な議論の進展の意義は大きい。その観点から、武田部長のTFTC議長就任は、日本が従来以上にその議論の中心的役割を担っていく好機と捉えている。特に、近年大きく注目を浴びている税務行政のキャパシティビルディングは、日本の得意分野であり、各国からの日本の貢献への期待も高い。OECDアジアアカデミーに象徴されるように、アジア太平洋地域の租税犯罪対策における日本の役割は特に大きく、また、我が国の国際租税犯罪の多くも、アジア諸国との取引を活用したものである。そのため、今後とも同アカデミーの参加国拡大や内容の充実を図っていく必要性は高いものと考えている。また、世界主要国の査察部長級が集まる当該会合は、国際的なネットワークの形成・強化に極めて重要である。今回の会合でも、武田部長が複数のバイ会談を行い、主要国当局との執行面での連携等について議論をしたところである。査察課としては、これらの機会を活用しつつ、端緒情報等の収集、先端技術を活用した調査展開、インフォーマルネットワークの活用を通じた事案処理等を強化していく考えである。最後に、税務長官会合(FTA)が2020年に発表している「税務行政3.0(Tax Administration3.0)」報告書*17に触れたい。同報告書は、各国の税務行政のデジタル化によりコンプライアンスが省力化され、「Tax just happens」という環境が実現されるという将来像を示しており、その中でノンコンプライアンスについて、「意図的かつ手間暇かかるものに収れんする」*18と述べている。その世界観をあえて租税犯罪の世界にも敷衍するとすれば、歓迎すべき現象として、いわば「バレてもともと」的な租税犯罪が相対的に実行困難になる一方で、租税犯則調査は、意図的に手間暇かけて脱税を行う者、すなわち今以上に積極的かつ

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