*10) IRS(2024), The J5 Report, http://www.irs.gov/pub/irs-ci/j5-report-7-25-2024.pdf.議事を進行する国税庁の武田部長 12 ファイナンス 2024 Sep.これまでに、アジア太平洋地域約30か国の政府当局の租税金融犯罪調査官及び関係する職員等約500名(いずれも累計)を受け入れている。日本の査察官も受講生として参加しているほか、査察部中堅職員による特別講義も行っており、OECD及び受講生から極めて高い評価を受けているところである。もちろん、当該アカデミーは貢献活動であるのみならず、特に日本との経済的つながりの強いアジア太平洋諸国とのネットワーク形成にもつながりうる活動と考えられる。2010年代後半からの傾向として、もう1点指摘できるのが、インフォーマルなネットワークへの関心の高まりである。2016年のパナマ文書、翌年のパラダイス文書は、国境を越える悪質な租税回避・脱税の存在と、グローバルな対策の必要性に再びスポットライトを当てる結果となった。この文脈で、2017年のForum on Tax Crime(TFTCの派生会合)においては、脱税請負人(Professional enablers)の役割が大きいこと、税務当局間で国際的にビッグデータを共有していく必要性、等が強調された。これを受け、一例として、米・英・蘭・加・豪の5か国の査察部長は「Joint Chiefs of Global Tax Enforcement(J5)」を設立し、2018年6月の初回会合以来、毎年1回以上の会合を行っている。J5は、当初の目的である迅速・大量の情報交換を行うほか、データ活用・暗号資産等に係る技術開発及び研修、強制調査における共助、銀行等への民間セクターへの共同での働きかけ等も行っており、査察行政協力の一つのモデルケースとなりうる存在と考えられる*10。TFTCの場における日本のプレゼンスは、近年飛躍的に高まってきた。日本が本格的に議論に参画するのは2012年頃からであるが、これは、この頃、当該会合の担当部局が国税庁国際業務課から査察課に移管され、より現場の状況等を踏まえた議論が容易になったことや、浅川副財務官(当時)が2011年にOECD租税委員会議長に選出され、その間接的な影響の下、日本に求められる役割も増大したことによると思われる。日本の貢献の認知度を上昇させるうえでは、2013年に日本が初めてビューロ(幹部会)メンバーに選出され、上述のSTR関連の報告書作成に携わったことや、2019年に上述のアジアアカデミーのホスト国となったことも有用であった。また、国内的には、2017年の組織犯罪処罰法改正による租税犯の前提犯罪化等、議論の前提となる法整備が進んだことも背景にあったと考えられる。そういった中で、2024年3月には、精力的にTFTCの地位向上に努めてきた豪(Australian Taxation Office:ATO)のBrett Martin前議長が退任し、同年5月、第27回TFTC会合において、国税庁の武田調査査察部長が、主要国の積極的支持を受け、全会一致の信任プロセスを経て、議長の任を担うこととなった。これまでの14年間の議長は全て欧米系(ほとんどが英語圏)であったが、OECD非加盟国の存在感の上昇や国際機関間の競争を背景に、OECD全体で包括性(inclusiveness)を重視する流れがあり、非欧米圏から一貫して議論に貢献してきた日本の指導力への期待は大きいと考えられる。3.第27回TFTC会合の概要TFTCの第27回会合はパリのOECD本部で5月28日・29日の2日間にわたって行われ、30日にはスピンオフ会合であるTax Crime Enforcement Network(TCEN:後述)が行われた。近年、コロナ禍によるオンライン化もあり、TFTCでは実務者級による技術的議題が中心となってきたが、今回会合では、これまでの活動の棚卸しと今後の戦略を議論すべく、各国の租税犯則調査機関の長(日本の調査査察部長に相当)
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