*6) OECD(2013), Evading the Net:Tax Crime in the Fisheries Sector report, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/9338d9b5-en.*7) かのシャウプ博士が戦後間もない日本に勧告したことの一つが租税犯罪の着実な調査・訴追であったことを考えれば、途上国の財源確保策を考える上ファイナンス 2024 Sep. 11 *4) 他方で、省庁間の協力を議論するに当たっては、各国ごとに異なる制度的な制約・限界や、そもそも省庁間の信頼関係といった無形の要素も前提となる。この点、税務当局としては納税者の秘密の重要性(守秘義務)とのバランスに配慮することが必要であり、我が国を含め、各国ごとに異なる制約・限界を前提とした議論を行ってきたことに留意する必要がある。*5) OECD(2015), Improving Co-operation between Tax and Anti-Money Laundering Authorities:Access by Tax Administrations to information held by ■nancial intelligence units for criminal and civil purposesweb-archive.oecd.org/temp/2015-09-21/372247-improving-cooperation-between-tax-and-anti-money-laundering-authorities.htmで、租税犯罪対策は一貫して重要なパーツであることは理解しやすいであろう。*8) OECD(2024), Fighting Tax Crime – The Ten Global Principles:Country Chapters, May 2024, OECD, Paris, *9) さらに、アフリカにおけるフランス語圏の諸国へのアカデミーの構想も現在議論中である。https://www.oecd.org/tax/crime/■ghting-tax-crime-the-ten-global-principles-country-chapters.pdf.租税犯罪等タスクフォース(TFTC)の概要と国際租税犯罪対策の展望犯罪がマネロン罪の前提犯罪として注目を浴びた時期でもあり、TFTCの初期の議論は、前述のとおり、マネロンや贈賄等と租税犯罪の関わりを中心に行われていたようである。これらの議論は、2011年の第1回「税と犯罪に関するフォーラム」於オスロにおいて「政府一体アプローチ」(Whole of Government Approach)として打ち出され(オスロ対話)、その後、2012年の「租税犯罪及びその他の経済犯罪への対抗のための効率的な省庁間協力に関する報告書(Effective Inter-Agency Co-operation in Fighting Tax Crimes and Other Financial Crimes:ローマ報告書)」や「税務調査官・検査官のための贈賄・腐敗のハンドブック」等に結実する等、一定の成果を残した*4。また、同様の文脈で、2015年には、「疑わしい取引の報告(STR:Suspicious Transaction Report)」の活用方法等が議論され、報告書*5が公表されている。個別のセクターに関する研究も行われており、例えば、2013年には水産業における租税犯罪についての報告書*6が作成されている。一方で、2010年代半ばから国際的に注目の高まっている分野が、租税犯則調査及び租税犯の訴追に関する途上国への技術支援、いわゆるキャパシティビルディングである*7。この背景には、国際取引を通じた租税犯罪等を効果的に調査・訴追するためには、自国と経済関係が密接な周辺諸国との連携や、そういった連携の前提となる周辺諸国の調査能力・訴追能力も重要であるという(近年高まっている)認識がある。TFTCは、2017年に「租税犯罪と闘うためのグローバル10原則(Ten Global Principles to Fight against Tax Crime:グローバル10原則)」を公表(2021年に改訂、翌年、OECD理事会勧告として採択)し、以来、OECD加盟国のみならず、開発途上国を含むTFTCの参加国・招待国に広く同原則に基づく自己審査を求めている。同原則は、・ 租税法違反を刑事罰の対象とすること・ 租税犯罪に対処するための戦略を策定すること・ 明確に示された責任を持つ組織体制と、適切な人員及び国内・国際協力のための効果的な枠組みを整備すること等、効率的かつ効果的に租税犯罪を防止、発見、調査(捜査)、訴追し、その収益を回収するための基本原則を規定するものである。自己審査の結果はOECDのホームページ上で公表される(執筆現在、51か国の自己審査報告書が公表されている)*8。同原則はいわゆるソフトローであり、拘束力のあるものではないが、効果的な租税犯罪対策の国際水準を示したものとなっており、足下でも途上国支援に活用される等、有意義な指標となっている。また、キャパシティビルディングに関するOECD全体のプログラムとして、先進国と途上国がペアとなり、集中的に途上国の税務調査に関する能力改善を行う「国境なき税務査察官(Tax Inspectors Without Borders-Criminal Investigation(TIWB-CI))」プログラムや、途上国等の租税犯罪調査官(査察官)に実践的な調査に係るノウハウの伝授を行う「OECD租税犯罪アカデミー」が開催されており、これらについてもTFTCの場で議論が行われてきた。特に、後者のアカデミーについては、日本の貢献も特筆してよい。当該アカデミーは2013年に発足したものであるが、イタリア財務警察が主催の全世界を対象とした当該アカデミーに加え、設立順にアフリカ(ケニア)、ラテンアメリカ(アルゼンチン)、アジア太平洋(日本)、南アジア(インド・本年よりパイロットプログラム実施)の4つの地域アカデミーが存在*9し、租税犯罪と戦う国際的な取組みの支援を行うために、それぞれの地域における査察官の教育に尽力している。日本は、2019年から「OECDアジア太平洋租税・金融犯罪調査アカデミー(OECDアジアアカデミー)」として、
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