ファイナンス 2024 Aug. 63PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 34 り、その背景には為替レートが均衡水準よりも円高な状態だから海外に行った方が有利だという事情があるのではないかという問題意識がありました。均衡為替レートについては今回の研究会でも正面からは議論できませんでしたが、足元で為替レートが円安に振れていることのインパクトや背景については、河野氏や唐鎌氏、また佐々木委員が議論を提起されたと思います。また、田中委員の議論などを見ていると、特に2010年代の前半は、国内設備投資と海外直接投資の代替関係が必ずしもあるわけではないということだと思います。そうではなく、松林委員の議論にあるように、真のグローバル企業は、利潤が取れそうならば国内・海外どちらでも投資するということなのだと思います。―ここまで各部門のあるべき姿や課題についてお話しいただきましたが、これらを念頭においたときに、政府の役割については、どのような見方ができるでしょうか。資金循環について議論する際に、政府の財政赤字をどうファイナンスするかというのが起点になることが多いですよね。しかし、政府部門のファイナンスのために家計と企業は貯蓄しろというのは、正しい解決策ではないと思います。企業と家計がここまで話してきたような、自律的な望ましい姿になった時に政府部門の姿が決まってくるというのが自然な考え方なのではないかと思います。したがって、政府の役割は、民間部門の所得と支出の循環を生み出していくために様々な政策を講じていくことにあると思います。高齢者の消費というのは1つのテーマとしてあり得ると思います。家計全体の消費をどう増やすかというときに、高齢者に増やしてもらうという発想です。高齢者が資産を取り崩さず消費が増えないという現象は世界各国で観察されていて話題になるのですが、実際、亡くなる間際の人の意思決定についての分析は進んでいません。その最大の理由がデータ、特に亡くなった時にどんな遺産を残しているかのデータがほとんどないのです。その意味では、最近始まった相続税の申告書データを使った研究には期待できると思います。高齢者の消費は、医療・介護の制度とも密接に関連していますし、なぜ遺産を残すのかといった観点を入れると、興味深いテーマになり得るのではないかと思います。古賀麻衣子 専修大学経済学部教授家計の資金余剰が今後どうなるかについて報告しました。現状で資産を多く持っているのは高齢者ですので、高齢世帯が増えるほど資産のストックは高水準を維持していくと考えられます。他方で、経済における変化に目を向けますと、例えば賃金カーブがフラット化したり、年金の所得代替率が低下することが家計部門の所得減少に効いて、それが貯蓄減少に効いてくると思います。その背景ですが、所得の変化に比べて消費の変化は緩慢であることが知られていますので、所得環境に対する重石が資金各委員のコメント研究会に参加いただいた各委員から、報告のポイントや研究会全体を通じての感想などについてコメントをいただきました。以下、ご紹介いたします。3.今後の課題―今回の研究会の議論を踏まえて、今後必要とされる研究について、どのようなものが考えられるでしょうか。
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