ファイナンス 2024年8月号 No.705
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宇南山卓 京都大学経済研究所教授/財務総合政策研究所特別研究官 2004年に東京大学で博士号(経済学)を取得した後、神戸大学准教授、一橋大学准教授、財務省財務総合政策研究所総括主任研究官、一橋大学教授などを経て2020年から現職。専門は日本経済論,経済統計学で、家計行動の分析や統計の質に関する研究に多数従事している。財務総合政策研究所総務課長 川本 敦/前 総括主任研究官 鶴岡 将司/前 主任研究官 伴 真由美/研究員 大川 隼人*1) https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2023/junkan.html財務総合政策研究所(財務総研)は、2023年11月から2024年5月にかけて「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」を開催しました。研究会では、日本における経済部門間の資金の流れに関する基礎的なデータを踏まえつつ、資金の受け手と出し手の構図、貿易における為替変動の影響度合いの変化、経常収支の構造変化、高齢化や労働市場の変化と家計貯蓄の関係、企業による投資行動の変化、日本経済の構造変化と成長に向けたメカニズム等、幅広いテーマに関する有識者からの発表等を踏まえて、参加者の間で活発な議論が行われました。研究会での発表内容や、それらを踏まえてとりまとめられた報告書は、財務総研のウェブサイトに掲載されています*1。本稿では、研究会の座長を務めていただいた宇南山卓京都大学教授に、本研究会の議論で特に印象的だった点等について伺ったお話に加え、各委員のコメントをご紹介いたします。昨年の研究会の出発点は、日本における長期にわたる経済成長の低迷が生産性の低さによるものではないかという問題意識でした。しかし、研究会の議論を通じて明らかになったのは、生産性は必ずしも低成長の原因とは言えないということでした。むしろ問題は、生産性の向上が賃金上昇につながっていないこと、企業の収益が有効な投資につながっていないことと考えられます。そこで、今回の研究会では、生産された付加価値が分配され支出されるまでの過程での「資金の流れ」に注目し、日本経済の成長に向けた課題を改めて整理すると有益なのではないかと考えました。また、資金循環を通じて、これまで指摘されてきた日本経済の課題を相互に関連づけることができるという点でもマクロで見た意義のある議論ができるのではと思いました。―研究会では、資金循環から見た日本経済の課題の例として、家計部門での消費の低迷、企業部門での内部留保の積み上がり、政府債務の増大、経常収支の黒字の縮小という4つの課題が指摘されました。資金循環からみれば家計部門・企業部門の資金余剰と政府部門・海外部門の資金不足という1つのバランスのあ1.研究会の狙いと期待―宇南山先生には昨年度の「生産性・所得・付加価値に関する研究会」に引き続き研究会の座長を引き受けていただき、感謝しております。今回の研究会を開催するにあたりどのような問題意識をお持ちだったのでしょうか。34宇南山座長インタビュー 60 ファイナンス 2024 Aug.「日本経済と資金循環の 構造変化に関する研究会」 報告書をとりまとめました

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