ファイナンス 2024年8月号 No.705
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ファイナンス 2024 Aug. 57令和6年度職員トップセミナー 「スーパー間氷期」であると確定できます。また、現在の温暖・寒冷気候変動は約100万年前頃から約10万の周期が卓越していますが、それ以前は4万年の周期が卓越していました。この周期性の大きな変換点に何が起きていたのか? この謎に迫ることも可能になります。100万年まで遡るということは、過去の気候変動を解析し、メカニズムを理解する上で非常に重要なことなのです。観測データはまだまだ足りません。本当にトッテン氷河から大量の淡水が放出されるかどうかを監視観測するためには、船舶を用いた観測が必要です。観測船「しらせ」は、世界に冠たる砕氷能力を持つ船です。このような船を使って初めて氷を割りながら進み、観測地点に到達することができるのです。今後も船を用いた観測は重要性を増していくでしょう。もちろん、海の観測だけでなく、大気の観測も重要です。そこに生息する海洋生態系との統合的な研究観測も、今後ますます必要とされる研究になっていくと考えられます。海上自衛隊の乗員が179名乗船して南極観測事業を支えてくださっています。「しらせ」は就役してもう15年目に入りまして、そろそろ次世代の「しらせ」後継船の準備の時期にきているタイミングかと思います。昭和基地はオングル島にあります。オングル島と南極大陸の間には、~5キロぐらいの幅を持つ海氷でびっしりと覆われたオングル海峡が存在しています。昭和基地はかまぼこ状の住居モジュールがいくつか点在しています。昭和基地のメインとなる管理棟、夏隊が滞在する建物、越冬隊の個室が入っている建物などがあります。また、寒冷地仕様の風力発電の装置や太陽光パネルなども設置されています。基地では風力発電、太陽光といった再生可能エネルギーも利用はしていますが、全体のエネルギーの数%で、大部分は化石燃料をエネルギー源にしています。重点研究観測以外にも基本観測として定常的に実施している観測があります。気象庁の気象隊員は1日24時間365日気象観測を実施していますし、国土地理院の隊員は南極の地図を作る仕事をしており、海上保安庁の隊員は潮汐観測や海底地形調査を行っています。このように多くの省庁が基本観測に携わっています。基本観測の中で、重要性を増しているのは、温室効果ガスの濃度観測です。南極の昭和基地と北極のニーオルスンという場所のCO2濃度の観測結果を示したデータには、違った特徴を見ることができます。北半球の場合、時系列データの振幅が大きくなります。これは、北半球には大陸があって植生も多いので、季節による草木の光合成活性状態変化の影響によるものです。一方、南半球は大陸面積が小さく、南極は植生がほとんどない状態ですので光合成活性の違いによる季節変化は見られません。一直線に上昇しているという状況になります。設営や輸送も夏季のミッションです。補給は年1回、夏の時期のみですので、越冬隊が1年半暮らしていける資材、食糧、エネルギー全てを輸送しなければいけません。また基地にて生じたゴミはすべて日本に持ち帰っています。廃棄物は持ち帰るという輸送も大変重要な夏のミッションということになります。昭和基地沿岸の輸送・設営のほかにも、約1,045本の八木式アンテナをネットワーク化したPANSYレーダーを使って昭和基地周辺の超高層大気の観測をします。大陸の成り立ちを調査するチームは地質観測を行6.今後期待される南極と南大洋の研究7.南極観測船「しらせ」「しらせ」は基準排水量としては1万2千トン、長さとしては140メートルです。第66次で何をする?:昭和基地1.昭和基地の施設2.基本観測3.昭和基地及び周辺での輸送・設営4.昭和基地、内陸、沿岸観測

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