ファイナンス 2024年8月号 No.705
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ファイナンス 2024 Aug. 55令和6年度職員トップセミナー この海面水位上昇、今はミリ単位ですが、実は南極には膨大な淡水が氷床として存在し、これが融解して海水に流出してしまうと、メートル単位で海水準を上昇させてしまう可能性があるということが懸念されているわけです。東京や大阪、上海等の世界の大都市の海抜は0mなので、海面水位上昇は大都市にとって大きな問題なのです。南極大陸の場合、大陸の表面には約3,000メートルの淡水が氷として存在しており、そろそろ氷床が融解して海水準を上昇させるフェーズに近づいているとの見解が示されています。膨大な氷床量を持つ東南極における観測のデータは圧倒的に少ないことから、日本の独壇場といわれる東南極において、氷床がどのようなメカニズムで融解していくのかを探求することが、現在の我が国の南極地域観測における重要な研究テーマとなっています。現在、「気候変動」や「海洋酸性化」など、安定した地球システムを脅かす10の環境ストレッサーが存在しています。これは「プラネタリーバウンダリー」という概念です。各環境ストレッサーを同心円上に表し、地球の環境が安定した状態を保てる限界を視覚的に理解するための図があります。中心の緑色の円の内側に収まっていれば、動的平衡が成り立っていて、まだリスクは大きくない、とされていますが、緑の円をはみ出してしまっているものはリスクが大きい、とされております。南極地域観測は、「土地利用の変化」と「水資源の枯渇」を除く8つのストレッサー(生物多様性減少、気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾン層の破壊、新規物質の導入、窒素・リン循環、大気中エアロゾルの増加、化学汚染)の理解に貢献します。地球規模のプラネタリーバウンダリーの影響評価は、南極地域の観測研究で非常に重要な項目となります。では次に、観測隊の編成についてご紹介したいと思います。「越冬隊」は、夏の期間は「夏隊」と一緒に過ごして、夏が終わる頃に「夏隊」は帰りますが、そのまま昭和基地に残ってひと冬を過ごして、翌年の「夏隊」と一緒に帰ってくるというチームです。「越冬隊」は大体30人ほどですが、1番多いのは気象隊員の5人(気象庁から派遣)です。最近は、夏の期間だけ南極で観測研究したいという方が非常に多くて、「夏隊」は60人のメンバーがいます。隊員以外に、旅費等を参加者側で支弁する「同行者」というカテゴリーがあり、大学院生、小・中・高などの教員派遣や外国人研究者など約20人が参加しています。これらの参加者を含め、現在の南極地域観測隊は合計で100人を超える編成となっています。観測隊は様々な役割を持つメンバーで構成されおり、3つパーティーに分かれて活動を行っています。1つは先遣隊です。10月下旬に南極航空網を利用して南極に一足早く入ります。この時期にしか観測できない事象、例えばペンギンのルッカリー(ペンギンやアザラシが集まって子育てする場所)の調査をする隊員や、内陸で柱状の氷床サンプルを採取する「内陸ドーム旅行隊」の隊員などが、先遣隊として先行して南極に入ります。次は本隊です。私もこの本隊に入ります。オーストラリアまで飛行機で移動した後、南極観測船「しらせ」に乗って、海洋観測を行いながら昭和基地に入ります。最後は別動隊です。東南極周辺の南大洋は「しらせ」だけではカバーしきれないほど広く、異なる季節の観測データの取得も重要です。そこで、東京海洋大学の練習観測船「海鷹丸」を利用し、「しらせ」より約1ヶ月ほど早い時期に南大洋での海洋観測を行います。これが別動隊の役割です。南極地域観測の中期計画は、6年ごとに改訂され、現在は第X期を実施中です。先ほどご紹介した「SCARホライズン・スキャニング」には6つの重要テーマがありますが、これらのテーマが「研究観測」のテーマとなっています。5.海面水位上昇だけではない南極の重要性第66次で何をする?:重点観測1.観測隊の編成2.行動概要3.南極地域観測6か年計画

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