ファイナンス 2024年8月号 No.705
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ファイナンス 2024 Aug. 53令和6年度職員トップセミナー 南極地域観測は昭和30年10月に閣議決定され、予算をつけていただいて、昭和34年から実施となりました。第5次まで行った後に一旦中断しますが、その後、村山雅美元南極地域観測隊長が奔走されて、当時まだ若かりし頃の中曽根康弘代議士と長谷川峻文部政務次官の2人を南極に連れていったのです。アメリカが研究者と軍との強力な連携のもと南極観測を推進していることを知った中曽根代議士は南極観測の重要性を認識し、このことが契機となって昭和38年度から南極観測が再開され、今に至っております。我が国の政策で南極に関連するものが2つあります。1つは「科学技術イノベーション基本計画」です。6つの柱のうちの1つである「社会課題を解決するための研究開発、社会実装の推進と総合知の活用」に南極地域観測は貢献するものです。もうひとつは2023年にスタートした「第4期海洋基本計画」です。この計画には「北極・南極を含めた全球観測の実施」という項目があり、今回第4期から初めて「南極」という言葉が海洋基本計画に含まれるようになりました。このように、南極地域観測は我が国の政策にも貢献する事業として位置づけられています。日本は敗戦国ということもあり、東南極という海氷が厳しい海域に昭和基地を建設することになります。東南極の大陸のすぐ目の前にあるオングル島に日本の昭和基地があります。海氷が厳しいエリアですので、東南極に基地を持つ先進国は未だにほとんどありません。しかし、現在では、その状況が功を奏して、この周辺のデータ収集において日本は非常に大きな役割を果たしています。1960年に南極条約が締結されます。日本は、この時の締約国12カ国の原署名国の1つであり、南極条約締約国会議における日本の地位は非常に高いと言えます。次にガバナンスについてです。南極に関するガバナンスとして、「南極研究科学委員会」があります。これは英語名の頭文字を取ってSCARと呼ばれています。SCARは1958年に設立された国際学術会議の委員会で、南極域や南極域の地球システムへの影響に関する先端的な国際的科学研究の立案、推進、協調を行う組織です。この委員会では重要な科学政策が決定されます。2014年に「SCARホライズン・スキャニング」という、南極研究の今後20年の重要テーマが策定され、SCARは現在「南極大気と南大洋の全地球的影響を明らかにする」等、6つの重要分野を推進しています。我が国の南極観測事業は、国立極地研究所が中心となり6か年ずつの中期計画として進めていますが、そのすべてが「SCARホライズン・スキャニング」の6つの重要分野に貢献するものとなっています。大気中のCO2濃度は変化し続けています。初めて監視観測が始まった1979年の大気中のCO2濃度は336ppmでした。それが現在では430ppmを超す濃度になっております。約10万年という単位で過去を遡ると、CO2濃度は200ppmからせいぜい高くても280ppmという範囲を上がったり、下がったりしていました。現在私たちが暮らしている400ppmを超えるCO2濃度がいかに高い濃度であるかがお分かりいただけるかと思います。もちろん、400ppmを超える大気中のCO2濃度というのは、地球46億年の歴史の中で何度か経験はしています。ただし現在のCO2濃度の増加速度があまりに早くて、46億年の歴史の中でも、これだけのスピードで大気中のCO2濃度が増加していた時代は、過去には一度もありません。従って、経験したことのない速さで大気中のCO2濃度が上昇している中、これからどうなっていくかということも含めて、実は分からないことばかりなのです。したがってCO2に関しては、濃度の監視観測だけでなく、それが及ぼす周辺環境の変化、それに対す2.南極地域観測と我が国の科学政策3.取り巻く背景南極観測事業の成り立ちと政策1.南極地域観測そもそもの話4.南極研究科学委員会地球温暖化と南極1.大気のCO2濃度の変化

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