ファイナンス 2024年8月号 No.705
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最初はよいイメージを持たれていたものが、 ファイナンス 2024 Aug. 1時代の変化によってそうではなくなったりすることってありますよね。たとえば、バブル景気の時代は「フリーター」が新しい自由な生き方のようにもてはやされていたと聞いていますが、1981年生まれのわたしが社会に出る90年代末になると、いわゆる就職氷河期で非正規雇用しか選べないような状況。「フリーター」はすっかり社会問題として扱われる存在になっていました。地元に就職先が見つからなかったため、高校卒業と同時に陸上自衛隊に入隊し4年後に退職、その後上京したけれど就職はできなくて非正規雇用の職を転々とした結果、文筆業に流れ着きました。なお並行して訪問介護ヘルパーとしても働いています。ひとつの立場にとどまることができなかったからこそ、さまざまな経験を文章の仕事につなげていきたいと思っています。それは就職氷河期世代だったからできることかもしれないですし。今年の1月に発生した能登半島地震の報道を見て、なにかできることはないかと介護資格を生かしたボランティア活動に参加しました。そこで過去に私が所属していた自衛隊の部隊も支援活動をしているのを見かけ、感慨深くなりました。配属先が関西だったこともあって、95年の阪神・淡路大震災時、自衛隊の初動の遅さを悔やむ声を先輩方から何度も聞いていたからです。当時は自衛隊自体のイメージもあまりよくなく、制服で歩いていると絡まれることもあったそうです。阪神・淡路での反省がいきているのか、現在では災害時に自衛隊の姿を見ることは当たり前の光景になりましたし、それにともなって自衛隊のイメージも徐々に向上したように思います。また、そのボランティアに参加する際に、SNSでの情報発信には細心の注意を、とアナウンスがあったことも印象に残っています。災害発生当初SNS上でデマが飛び交い、とくにボランティアに関する情報が錯綜した結果なのでしょうか。インターネットやSNSというものは東日本大震災の頃は災害時に強い新たな情報ツールとして期待されていたはずなのに、今ではむしろデマや誹謗中傷の温床のようなイメージのほうが強くなってしまったように感じています。私もかつては「インターネットで情報格差がなくなって新しい時代がくる」と素朴に信じていたので、今のような状況になるとは思ってもいませんでした。もしかしたら、バブルの頃にフリーターは新しい生き方であると信じていた人も同じ気持ちだったのかもしれません。このように、時代の変化によって良くも悪くもイメージが変わるものはたくさんあります。今現在ダメだと思われているものだって、もしかしたら将来は別の捉え方をされている可能性もあります。たとえば昨今、少子高齢化が急速に進んだことによって、日本の将来を不安視する声が増えています。介護の仕事をしていると様々な問題を目の当たりにしますし、メディアやSNS上では将来を悲観する情報や世代間対立を煽るような情報が飛び交っています。キャッチーなフレーズやセンセーショナルな情報は目を引きますが、「本当にそうなのかな?」と一旦立ち止まって考えたいですし、間違っていたと思ったら、きちんと引き返せる勇気を持ちたいと考えています。フリーライター藤谷 千明時代によって変わっていくもの

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