ファイナンス 2024年8月号 No.705
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ファイナンス 2024 Aug. 39*8) 厳密に言えば、10年の日本国債とちょうど同じ年限の共同発行債があるとは限りません。これは10年国債がリオープンを用いている一方、共同発行債はリオープンを用いていないからです。*9) 2024年度からはサステナビリティボンド(外債)の発行も予定されています。シ団引受方式入門 還日が異なりうる点です。したがって、発行金利を決める上で、そのベースとなるリスク・フリー・レートは、条件決定日における国債のイールドカーブを引き、一定の条件の下で新しく発行する共同発行債と同じ年限となる金利を計算した上で決定されることになります(「カーブ+〇bps」という形でスプレッドを用いてプライシングがなされます)。例えば、条件決定日にスプレッドが10bpsである場合、その時の国債のカーブを引き、ちょうど年限が同じリスク・フリー・レート(国債の金利)が50bpsであれば、60bps(=10bps+50bps)が当該債券の利率となります*8(スプレッドに関するプライシングの詳細は別の論文で説明します)。グリーン債の発行についても、前述と同じプロセスで、各団体が調達したい額を持ち寄り、定期的に発行が行われています。もっとも、通常の共同発行債が毎月発行であるところ、現在、グリーン債は半年に一度という頻度で発行されています。なお、各自治体が共同発行債でグリーン債を発行するメリットとして、以下のようなことが指摘されています。まず、グリーン債を発行する場合、認証機関や格付機関に対する支払いが生じることがあります。各自治体でグリーン債を発行した場合、このコストを3.3 グリーン債における主幹事方式の採用共同発行債は2023年からグリーン債を発行していますが、グリーン債の発行については主幹事方式が用いられています。そもそもグリーン債とは、発行体が当該地方債により調達した資金につき、その使途を環境関係に絞った上で明確化するものです。また、グリーン債を発行する際に、投資家がどの程度、当該債券を重視したかの指標として、いわゆる「グリーニアム」(通常債に対してどの程度グリーン債の金利が低く抑えられるか)が市場で注目を受けます。これらの観点を踏まえ、投資家の需要を重視した起債方法である主幹事方式がグリーン債に適しているとの指摘もあり、共同発行債のうちグリーン債については主幹事方式が活用されています。様々な団体が各々で負担しなければならないところ、共同発行債の形をとることでそのコストを抑えることができる可能性があります。また、グリーン債を各団体が個別に発行した場合、その各々の発行規模が小さくなる可能性がありますが、共同発行債という形で多くの自治体の調達額をまとめて調達することで、債券の流動性を上げることが可能になります。シ団引受方式の事例として、本節では東京都債(都債)の事例を取り上げます。東京都は、10年債についてはシ団引受方式をベースにしていますが、後述する融合方式も活用されてきました。東京都は10年債を毎月発行しており、年間の発行総額は2,200億円程度になります。都債の年間発行総額が5,200億円程度ですから、10年債は都債の主軸ともいえるでしょう(図表5を参照)。10年以外の年限の都債については、主幹事方式で発行されています。東京都からは、グリーンボンドやソーシャルボンド、さらに、フレックス、外債など多種多様な都債が発行されています*9。石田・服部(2024b)で説明したとおり、東京都は主幹事方式を地方債の自由化の中でいち早く導入した団体であり、市場を重視した起債が特徴といえます。前述の通り、東京都は10年債に関し、シ団引受方式を軸とした発行を行っています。東京都についても、シ団は銀行団と証券団で構成され、銀行団の代表と証券団の代表が東京都と交渉することで、両者が折り合える金利を模索します。図表6が現時点(2024年4月時点)での東京都10年債のシンジケート団の内訳です。図表6にあるとおり、銀行団と証券団にそれぞれ年間代表幹事がいます。年間代表幹事は、銀行団と証券団の代表者になります。彼らは、シ団各社の意見を取りまとめることに加え、シ団各社への事務連絡等を担います。また、図4.2 東京都10年債:シ団引受方式4.東京都におけるシ団引受方式と融合方式4.1 東京都における発行の概要

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