ファイナンス 2024年8月号 No.705
39/82

5年・10年ファイナンス 2024 Aug. 35シ団と相対で交渉して金利を決定地方自治体(発行体)シンジケート団(シ団)銀行団銀行A銀行B証券団証券A証券B*5) 筆者の私見では、シ団引受方式では銀行団と証券団が発行体に事前にプレマシートなどを提出することから、このように名付けられているのだろうと考えています。図表1 シ団引受方式のイメージシ団引受方式入門 めます。具体的には、図表1のように、シ団は銀行を軸とした銀行団と証券会社を軸とした証券団で構成されます。典型的なシ団引受方式の流れとしては、銀行団と証券団の中にそれぞれ代表者がいて、発行体はその代表者と交渉するとともに、銀行団はシ団に含まれる銀行、証券団はシ団に含まれる証券会社の意見を集約し、発行体は、銀行団と証券団の代表者とコミュニケーションを行うことで、金利の交渉を行います。銀行団と証券団で、引受の目的が異なる点にも注意が必要です。銀行は最終投資家であるため、当該債券をそのまま保有する可能性が高く、銀行自身が当該債券をどれくらい購入したいかということが金利に係る目線となります。その一方、証券会社は基本的には発行体と投資家を繋ぐ媒介です。証券会社が一時的に在庫で保有することもあるものの、基本的には引き受けた後、投資家に販売することが想定されるため、引き受けた後に販売する投資家が購入したい金利が応札の目線になります。もっとも、銀行についてもセカンダリー市場で当該地方債を売却することは可能である点に注意してください。現在の地方債市場では、主に5年・10年債についてシ団引受方式が用いられています。図表2は石田・服部(2024b)でも紹介した図ですが、これを見ると5・10年債についてはシ団引受方式が用いられる傾向があり、共同発行債(10年債)についてもシ団引受方式で発行されています。5・10年債にシ団引受方式が用いられている背景として、歴史的には地方債は5・10年債が中心であり、長い間シ団引受方式が用いられてきたことがあります。前述のとおり、2000年以前は統一条件交渉方式であったことから、総務省とシ団で交渉した金利で地方債が販売されており、それが今でも継続していると解されます。一方で、2000年以降、地方債市場が自由化される中で、超長期債の発行など年限の多様化が行われていますが、新しい年限で発行される債券については主幹事方式が用いられる傾向にあります。シ団引受方式は「プレマ方式(プレマーケティング方式)」と表現されることもあります。これは実務家がシ団引受方式を指すときにしばしば使う表現ですが、条件決定においてプレマーケティングをすることから来ています。プレマーケティングとは、債券を発行する際、金利を決める(条件決定をする)前に、投資家の需要を証券会社がヒアリングすることを指します。その意味で、主幹事方式でもプレマーケティングは存在しますが、地方債の世界でプレマ方式という場合、シ団引受方式を指すのが一般的です*5。シ団引受方式におけるプレマーケティングは、典型的には条件決定日の2営業日前から1営業日、実施します。銀行団と証券団は、発行体にプレマシートなどを通じて、自らが当該債券を引受けたい金利を提示します。それに基づき、発行体と引受団が交渉して金利を決めます。地方債の調達コストとなる金利は、一般的に「リスク・フリー・レート+スプレッド」に分解できますが、シ団と発行体で、金利における「スプレッド」の交渉を行い、条件決定日の夕方から夜にか2.2  シ団引受方式が用いられる年限:主に2.3 シ団引受方式におけるプレマ方式

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る