*1) 本稿の意見に係る部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者らによるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿にコメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) 客員研究員*3) 特任准教授*4) 下記を参照 https://sites.google.com/site/hattori0819/石田・服部(2024a)で指摘したとおり、一般的に、地方債といえばいわゆるローン形式を含む銀行等引受債なども含みますが、本稿ではシ団引受方式を説明することを目的としていることから、有価証券の形式をとる市場公募地方債を前提に議論を展開する点に注意してください。なお、筆者(服部)が記載してきた債券入門シリーズは、ウェブサイトにまとめて掲載してあります*4。市場公募地方債の発行方式として、石田・服部(2024a, b)では、主に、シ団引受方式、主幹事方式、入札、さらにその組み合わせを紹介しました。歴史的には、統一条件交渉方式の下では、市場公募地方債の発行条件を決める際、総務省(自治省)が発行団体の窓口となり、金融機関から構成されるシンジケート団(シ団)と交渉を行っていました。その頃は市場公募地方債の発行条件(金利)はどの団体でも同一であり、そこでは総務省(自治省)とシ団が相対で交渉するシ団引受方式が取られていました。その後、東京都とその他を分ける「2テーブル方式」が採用され、個別交渉方式が開始される中、東京都と横浜市が超長期債の発行に主幹事方式を導入したことを嚆矢に主幹事方式が普及していきました(石田・服部(2024b)を参照)。日本国債についても、歴史的にはシ団引受方式が用いられていましたが、2000年代の改革を経て、市場との対話を重視する入札制度へと移行しました(この詳細を知りたい読者は、齋藤・服部(2023)を参照)。そもそも、引受(アンダーライティング)とは、発行体が債券を発行するのに際し、金融機関が一時的に当該債券を在庫として保有することで、投資家に販売する方法を指します。シ団引受方式も主幹事方式と同様、引受の一種と解されますが、主幹事方式では投資家の需要に応じて発行される債券の配分先が決まるのに対して、シ団引受方式の場合、各金融機関が引き受ける割合が既に決まっている点が大きな特徴です。例えば、国債の入札の場合であれば、高い価格(低い金利)で応札した投資家に多く配分されますし、主幹事方式においても証券会社を通じて高い価格(低い金利)で購入する投資家に多く配分されます。その一方で、シ団引受方式の場合、その割合が事前に固定されています。その意味で、シ団引受方式の焦点は、シェアが予め決まっている中で、どのように金利(発行条件)を決めるかにあります。シ団引受方式では、発行体と金融機関(シ団)が相対で交渉して地方債の発行金利を決1.はじめに本稿は、シ団引受方式(ナショナル・シ団方式)を説明することを目的としています。石田・服部(2024a, b)では市場公募地方債における、入札及び主幹事方式について説明しました。シ団引受方式は、歴史的に長く用いられており、現在でも多くの自治体で、5年・10年債の発行に用いられています。本稿ではシ団引受方式の概要を説明した後、その理解を深めるため、シ団引受方式を用いている共同発行債と東京都債の事例を取り上げます。*1*2*32.シ団引受方式2.1 シ団引受方式とは財務総合政策研究所 石田 良*2/東京大学 服部 孝洋*3 34 ファイナンス 2024 Aug.シ団引受方式入門―共同発行債と東京都債を事例に―*1
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