ファイナンス 2024年8月号 No.705
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ファイナンス 2024 Aug. 23チェンマイ・イニシアティブの緊急融資ファシリティの創設合意に至る議論 *3) CMIMにおいて、各メンバー毎の貢献額と引出可能総額が定められている。詳細は以下のURL参照。 (https://amro-asia.org/wp-content/uploads/2024/05/CMIM-Members-Contribution-and-Voting-Powers.pdf)。ついては、日中韓3か国は、その裁量で、地域の自由利用可能通貨(日本円、人民元)を一定程度供与することが可能となった。(制度設計と考え方は次項を参照)その上で、合意内容をCMIM契約書に反映し同契約書を改定する作業を進め、次回の2025年5月財務大臣・中銀総裁会議において、この改定に合意することとされた。等を紹介したい。目的:突発的な外生ショックから生じる現実かつ緊急な対外収支困難への対応この目的に背景にある考え方としては、RFFは自然災害やパンデミック等のショックに直接対応するのではなく、CMIMの創設当初からの目的に沿って、あくまでこれらの影響によって生じる対外収支に困難に対応する、という点が大事である。また、ショックが起こる前に経済のファンダメンタルズや国内の経済政策運営に問題を抱えている国は支援の対象とはならない。これは、RFFにはコンディショナリティを設けない(後述)中で、貸付国の希少な外貨資金を保全する観点から非常に重要である。一方、パンデミックがそうであったように将来起こりうるショックを予見することは容易でないことから、「外生ショック」の事象は予め限定せず、意思決定を行う代理がAMROの分析等をベースに柔軟に判断できる余地を残している。引出上限額:通常のCMIMの引出可能総額の半分(IMFリンクの場合引出可能総額*3の50%、IMFデリンクの場合引出可能総額の20%)議論の初期段階においては、引出上限額を既存のファシリティより低く設定することはRFFの魅力を損なうのではないかとの意見も出たが、結論的には、RFFは小規模の国際収支困難に迅速に対応するものと整理された。この結論は、RFFはコンディショナリティを設けRFFの制度設計と考え方以下、RFFの主な制度設計とその背景にある考え方ず、CMIMの既存のファシリティほど貸付資金の保全が強くないことから、IMFの緊急融資の制度設計に倣い、引出上限額を抑制することが適当という考えに基づくものである。金利:市場金利ベースでの貸付(CMIMの既存のファシリティと同様)メンバーの議論の中で、自然災害等のショックで困難に陥っている国(特に所得水準の低い国)に更に負担をかけないよう、市場金利よりも低い金利での資金供与を検討すべき、との意見も出たが、既存のファシリティと同様の市場金利ベースでの貸付となった。現実問題として、CMIMの財源は各国の外貨準備のみであり、世銀、ADBやIMFのように低金利融資のための財源を有していないことなどからこうした結論となった。コンディショナリティ(融資条件):RFFでは事前または事後のコンディショナリティを設けず(1)自然災害のようなショックの場合は迅速な資金供与が必要であり、コンディショナリティ策定のための交渉を行う時間的な余裕はないこと、(2)既存のファシリティよりも引出上限額が低い(上述)ことから相対的にリスクが低いこと、を総合的に勘案し、コンディショナリティは設定しないこととなった。議論の過程では、コンディショナリティの存在が、CMIMの既存のファシリティへのアクセスのハードルを高めているとのASEAN諸国の思いも垣間見られた。通貨選択:日中韓3か国は、それぞれの供与金額の最大50%まで地域の自由利用可能通貨(日本円、人民元)による供与が可能「最大50%」との結論とした背景には、大きく2つの考慮要素があった。一つには、RFFが使用される自然災害等の外生ショックが発生した場合であっても借入国側は米ドルへの需要がなお大きいと考え

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