ファイナンス 2024年8月号 No.705
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ファイナンス 2024 Aug. 21*1) 本稿の作成にあたっては、様々な方に有益な助言や示唆をいただいた。本稿は、個人的見解・意見を述べるものであり、組織としての見解や公式見解を示すものではない。 はじめにファイナンス令和6年6月号において、2024年5月3日(金)にジョージア・トビリシで開催された「第27回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議」における地域金融協力の成果を紹介した。なぜCMIMにおける新たなファシリティの議論が始まったのかCMIMは、1997−98年のアジア通貨危機の経験を踏まえ、各国の外貨準備を用いて短期の外貨資金を要請国の通貨と交換する通貨スワップのネットワークを構築し、危機の連鎖と拡大を防ぐことを目的とした仕組みである。このCMIMには、危機が生じた国から要請があった場合に外貨を融通する「危機対応ファシリティ」と、危機は顕在化していないものの潜在的な支援ニーズを有する国に対して、与信枠を設定する「危機予防ファシリティ」の2つのファシリティが存在している。一連の成果の中で、特に、チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)の「緊急融資ファシリティ(RFF:Regional Financing Facility)」の創設合意は、2014年以来の新たなファシリティ創設という画期的なものであった。本稿では、2023年に日本がインドネシアとともにASEAN+3の共同議長国としてRFFの議論を開始して以降、創設合意に至るまでにどのような議論をたどったのか、また、制度設計の背景にはどのような考え方があるのかを、現場の視点で私見も交えつつ紹介したい*1。2023年のASEAN+3の日本共同議長下において、日本から、これら既存ファシリティとは別の、RFFという新ファシリティ創設の議論を開始することを提案した。その動機は、主に2つあった。1つ目は、CMIMの利便性向上である。2020年に始まったパンデミック下では、IMFの緊急融資は数多く利用された。CMIMはそうした緊急支援の仕組みを有していないことから、主としてASEANメンバーから、CMIMにもこうしたツールを備え、CMIMの一層の利便性向上が必要ではないか、という声が上がっていた。2つ目は、日本のリーダーシップ発揮である。ASEAN+3の金融協力は、アジア通貨危機のような域内の危機の伝播を繰り返さないという共通の目標の下、「+3」国すなわち、日本・中国・韓国が、ASEAN諸国に対して支援を提供するという姿勢で議論をリードしてきた面が強い。「+3」国の中でも主導的な立場にある日本が、その共同議長国の年に、メンバーに求心力あるRFF創設というCMIMの根本にかかわるようなテーマを取り上げたことは、ASEAN+3の財務プロセスにおける日本の存在感の強化に寄与した。まず、日本の共同議長年が始まる直前の2022年末前 国際局地域協力課 課長補佐 庄司 浩典RFF創設合意に至るまでにたどった議論RFF創設合意に至るまでの議論には、大きく分けると、(1)RFF提案から2023年5月の財務大臣・中銀総裁会議まで、(2)2023年12月に金沢で行われた財務大臣・中銀総裁代理会議(財務官レベル)まで、(3)2024年5月の財務大臣・中銀総裁会議まで、の3つのフェーズがあった。〈第1フェーズ:RFF提案から2023年5月財務大臣・中銀総裁会議まで〉チェンマイ・イニシアティブの 緊急融資ファシリティの創設合意に至る議論

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