20222021202020182019(出所)IMF「World Economic Outlook(2024年4月)」、OECD Stat201720162015201420132012201120102009200820072006200520042002200320012000▲0.2▲0.4*1) 唐鎌(2022)の要因分解を参考に当課にて試算*2) 本調査は、各財務局がヒアリング調査を行った企業についての調査結果であり、日本企業全体の動向を網羅した調査結果ではない点に留意。 0.4交易条件分配率生産性実質賃金0.20.0https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/202401/tokubetsu.pdf3.賃金に関する分析前述のとおり、労働需給がひっ迫するなかで名目賃金は上昇傾向にあるものの、物価上昇を背景に実質賃金は弱含んでいる。2024年がコストカット型経済からの脱却の年となるためには、物価上昇に負けない賃上げが実現し、実質賃金が上昇することが必要である。そこで、今後の実質賃金の動向を考えるため、実質賃金の変動を、労働生産性・労働分配率・交易条件に要因分解*1する。なお、長期的には、一人当たり名目賃金の下押し要因として、女性・高齢者の労働参加に伴う非正規雇用の増加による労働時間の減少が指摘されているところ、その影響を除くため、本分析では、時間当たりの実質賃金の動向を確認することとしている。4.2024年の賃上げの動向次に、2024年の賃上げの動向を確認するにあたり、まず、賃金と一般的に相関の高い物価の動向を確認する。消費者物価指数(総合)は足もと2%台で推移しているほか、物価の中でも、賃金とより相関が高いと指摘される消費者物価指数におけるサービスの動向においても、企業の価格転嫁が進展するもとで2%前後の高い上昇率となっている。また、賃上げの原資となる企業収益について、法人企業統計調査(年次別調査)の経常利益を確認すると、日本経済の経済活動の回復や円安等を背景として、2022年度は95.2兆円と過去最高の水準となっている。さらに、2023年度についても企業決算の状況から、好調な企業収益となることが見込まれている。ここで、財務省・財務局が、令和6年3月中旬から4月中旬に各財務局管内の全国1,125社に実施したヒアリング調査*2で企業の賃上げの見通しを見てみる。同調査によれば、2024年度に「ベア」を実施すると回答した企業の割合は約7割、「定期昇給」は約8割となり、企業が賃金の底上げを意識していることがうかがえる。(図表5)また、「賃金引上げを実施する理由」としては、「社員のモチベーション向上、待遇改善、離職防止」との回答が最も多く、「物価上昇への対応」、「新規人材の確保」が続いた。(図表6)一方で、「賃金引上げを実施しない理由」としては、「業績(収益)低迷(見通し含む)」との回答が最も多く、「価格転嫁ができない、または追いつかない」が続いた。(図表7)「人件費の価格転嫁」については、一定程度以上できたとする企業が、大企業、中堅・中小企業等いずれも約3割となったものの、価格転嫁が十分に、または全くできていないとする企業は、大企業では約4割、中堅・中小企業等では約5割となり、人件費の価格転嫁が引き続き課題となっている。「人件費の価格転嫁ができていない理由」としては、「同業他社の動向」との回答が最も多く、「原材料費の高騰分の価格転嫁を優先している」、「取引先や消費者から理解が得られない」が続いた。(図表8)図表4に示されている通り、時間当たりの実質賃金の伸びは、労働生産性の上昇に支えられている一方で、労働分配率の低下や交易条件の悪化が下押し圧力となっていることが分かる。特に足もとでは、エネルギー・食料を中心とした輸入物価の上昇を背景に、交易条件悪化による下押し幅が拡大している。言い換えると、エネルギー・食料といった輸入品の価格が、生産される財・サービスの価格との対比で上昇したことにより、賃金の原資となる国内の付加価値に下押し圧力がかかっていたと考えられる。【図表4】時間当たり実質賃金の要因分解(前年比、累積%)他方で、日本が資源輸入国である以上、資源価格の高騰局面における交易条件の悪化は不可避であり、そのような局面でも賃金上昇率を高めていくためには、人的資本投資の強化や労働移動の活性化を通じて、労働生産性の更なる引上げを行っていくことが重要と考える。 14 ファイナンス 2024 Aug.
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