ファイナンス 2024年7月号 No.704
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チチカカ湖でのサーモントラウト養殖向けIoTプロジェクト3−1. 日系人創立の信用組合を通じたMSMEs支援(ペルー)IDBグループ機関の一つであるIDB Labは、IDBグループの“Innovation Laboratory”として、中南米が抱える様々な課題に対するイノベーティブなソリューションを持つスタートアップや中小零細企業(MSMEs)に対し、融資やエクイティ投資、技術協力を行っています。IDB LabとJICAが連携して提供するTSUBASA(Transformational Start Ups’ Business Acceleration for the SDGs Agenda)プログラムは、SDGs達成に貢献し得る革新的なビジネスモデルやテクノロジーを持った日本のスタートアップ企業の中南米進出を支援するものです。2021年に始動し、2023年までの3年間で、中南米・カリブ地域の開発課題の解決に向けたアイディアを持つ28の日本企業が採択されています。採択企業は、6ヶ月の間、IDB Lab・JICA・コンサルタント企業による助言や現地ネットワークの紹介など、事業アイデアを具体化するためのサポートを受けます。これらのサポートの結果、現地パートナーを特定し、実現可能性の高いビジネスプランが検討できている場合、TSUBASAプログラム終了後にIDB Labによる追加支援の可能性が検討されます。IDB日本信託基金からも、必要に応じてパイロットプロジェクト実施に向けた支援等を行っています。ペルーにあるAbacoは、1981年、“practicar la ayuda mutua”(相互扶助の実施)を掲げて32名の日系人が創立した貯蓄信用組合です。現在ではペルー全土で3万人以上の日系・非日系組合員を有し、ペルーの信用組合最大手の一つとして、組合員向けに金融サービスを提供しています。また、日・ペルー商工会議所の理事を務め、日系コミュニティの施設やイベント開催のスポンサーになるなど、ペルーの日系人社会を振興する役割も担っています。IDB Labでは、2014年からAbacoに対する融資や技術協力、JICAとの協調融資を行ってきました。その一環で、日本のスタートアップ企業とのタイアップも実現しています。2014年には、日本でマイクロ投資プラットフォームを提供するミュージックセキュリティーズ株式会社とAbacoの連携により、既存の金融機関から十分な融資を受けられないペルー地方部の小規模農業生産者・事業者のための「Abaco小さな農家応援ファンド」が立ち上げられ、日本の個人投資家からクラウドファンディングで集めた資金がAbacoを通じて現地に提供されました。また、2019年には、日本・シンガポールに拠点を持つウミトロン株式会社とAbacoが連携し、ウミトロン社が有するAIやIoTを活用した養殖の自動化テクノロジー(スマートフォンアプリを用いた魚の観察や給餌最適化等)を、ペルー・チチカカ湖におけるサーモントラウト養殖に導入し、生産性向上と高付加価値化を図るプロジェクトも実施されました。2023年にスタートした最新のプロジェクトでは、IDB日本信託基金も活用し、ペルーのMSMEs向けのマイクロ投資クラウドファンディングプラットフォームの立ち上げが目指されています。ペルーでは、MSMEsが全企業数の99.4%を占めるとともに、MSMEsによる雇用が民間部門総雇用者数の90.6%、ペルー全体の労働力人口の61.4%を占めています(2022年、ペルー生産省)。ペルーにおいて、MSMEsは銀行ローン等の従来の資金調達手段へのアクセスが十分でなく、株式発行による資金調達も、市場が十分に発展しておらずほぼ実現できていない状況にあります。そのため、MSMEsのビジネスの立ち上げ・継続・拡大に資するような革新的な資金調達スキーム/プラットフォームの開発が望まれていました。本プロジェクトでは、先述のミュージックセキュリティーズ社とAbacoが連携し、ペルーにおいて新しいジョイントベンチャーを立ち上げ、MSMEsに対する個人投資家からの小規模投資を集めるためのクラウドファンディングプラットフォームの構築が目指されています。ミュージックセキュリティーズ社はTSUBASAプログラムの採択企業であり、プログラム 66 ファイナンス 2024 Jul.

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