今から100年ほど前の大正12(1923)年9月ファイナンス 2024 Jul. 1 1日正午ごろ、首都圏をマグニチュード8クラスの巨大地震が襲った。建物の倒壊とともに多くの火災が発生し、東京では中心部の約40%が焼失したという。官公庁も例外ではなく、文部省や大蔵省の庁舎が全焼したのをはじめ、多くの省庁が被災し、貴重な文書も多数失われた。そうした中で、燃え盛る庁舎から必死の想いで持ち出され、あるいは、耐火金庫等に収められていたために奇跡的に難を逃れた文書も存在する。大蔵省の「焼残文書」もその一つで、大蔵省財政史室が、震災以前の文書を文書課や税務署などから引き継ぎ、昭和40年代に一括整理したものであり、一部が茶色く焼け焦げたものも含まれている。これが昭和58(1983)・平成22(2010)年度に国立公文書館に移管され、明治大正期の貴重な財政記録となっている。このことは、とりわけ大蔵省においては、古くから、公文書が適切に管理・保存されていたことを意味するが、それは、主として行政を適切かつ効率的に運用することを目的としていたものと解される。しかし、第2次世界大戦後には、これに加えて、公文書を国民の閲覧に供することによって国の説明責任を果たすことが求められるようになり、昭和46(1971)年に、「国の行政に関する公文書その他の記録を保存し、閲覧に供するとともに、これに関連する調査研究及び事業を行ない、あわせて総理府の所管行政に関し図書の管理を行なう機関」としての国立公文書館が開設された。現在、国立公文書館は、「国立公文書館法」および「公文書管理法」に基づいて、行政機関、最高裁判所、独立行政法人等から移管され、または団体・個人から寄贈・寄託された特定歴史公文書等約120万冊、徳川幕府から引き継いだ古書・古典籍等を中心にした内閣文庫50万冊を所蔵し、毎年3~5万冊程度を新たに受け入れ、これを国民の主体的な利用に供するとともに、歴史公文書の保存・利用に関する調査研究や研修、展示会の開催等を行っている。ちなみに、本年7月に150年以上にわたり培った偽造防止技術の結晶である新紙幣が発行される機会を捉え、私どもが所蔵する記録を用いて、我が国の近代的な紙幣制度の整備などを紹介する特別展「お札に描かれた人物―公文書で見る紙幣の歴史―」(7/20~9/16)を開催する。国立公文書館の機能のいっそうの拡充を求める声が強まっている一方で、書庫は数年前に既に満杯となっていることなどから、国会議事堂近くに新館の建設を進めている。私たちは、新館開館を機に、「展示」を通じて公文書館や公文書管理の重要性や、我が国の歴史や政策の成り立ちを学べる場にするほか、レファレンス機能や学習プログラムの開発等を通じた国民への利用支援の強化、地方自治体や他の類縁機関との連携・協力関係の強化・推進、行政庁等への助言・研修・人材派遣、デジタル技術の活用、調査研究機能の充実・強化などを通じて、名実ともに我が国における公文書管理の中核を担う機関“Center for Archives”となることを目指している。開館50年を迎えた2021年に新たに作成した国立公文書館のキャッチフレーズ「記録を守る、未来に活かす。」(Archives:Evidence from the Past, Beacon for the Future)もまた、こうした過去・現在・未来への記録の伝達・活用を意図したものである。国民共有の知的資源としての公文書の作成から利用までのプロセスを国民目線でつないでいく国立公文書館の今後の発展に期待をお寄せいただき、活動を見守っていただきたい。独立行政法人国立公文書館長鎌田 薫国立公文書館の新たな一歩 〜Center for Archivesの実現に向けて〜
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