ファイナンス 2024年7月号 No.704
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<提言の骨子> ○ 市場原理の導入による適切な都債発行を実施するため、都は、現行の条件 決定方式から離脱し、主幹事方式に移行すべきである。○ 主幹事の選定は、適正な競争性を確保するため、提案方式を基本とすべき である。○ 発行条件の設定には、中長期的な低利・安定調達を実現するため、スプレッ ドプライシング方式を採用すべきである。○ 都債に対する市場の信頼を向上させ、さらなる投資家層の拡大を図るため、 早期に発行年限の多様化を実施すべきであり、格付の取得についても 15 年 度中に検討すべきである。(出所)東京都(2003)図表4 「都債発行に関する制度改革検討委員会」における提言の骨子*10) 日本経済新聞(2003/7/18)「横浜市、20年債条件決定、初の主幹事方式」*11) https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/zaimu/iinkaihoukokuzenbun0527*12) 日本経済新聞(2023/7/8)「地方債、横並びに風穴―都・横浜が改革先導(ポジション)」*13) 日経公社債情報(2003/6/9)「〈都債改革、夏にも第一弾〉主幹事方式で超長期債」*14) 東京都(2003)のp.36より抜粋。*15) 東京都(2003)のp.5より抜粋。*16) 東京都(2003)のp.5より抜粋。3.主幹事方式の拡大の流れ3.1 東京都の事例うに入札が用いられることもあれば、社債のように主幹事方式が取られることもあるのが実態といえましょう。事務の手間という観点であれば、主幹事方式の方が入札より手間がかかるとの指摘もあります。前述のとおり、主幹事証券の選定の際に、各証券会社の提案などでコンペを行うなど、入札にはない様々な事務が必要になってきます。また、前述の起債のプロセスでは、発行体と投資家の間でプライスを決める手続きが必要になります。その一方で、入札の場合は、システムに投資家が札を入れれば価格が決まります。事務手続きの側面から見れば、主幹事方式より入札の方がシンプルであるとの意見も知られています。実際には、近年、入札を採用する自治体が減る一方、主幹事方式をとる自治体は増えています。その背景には、特に近年、低金利が常態化してからは、実態として自治体間の市場公募地方債のスプレッドに大きな差が生まれず、入札により起債結果の変動が大きくなること等が忌避されたとの指摘もあるところです。前述のとおり、超長期債については主幹事方式が取られるようになった先駆けとして、まず東京都と横浜市が超長期債に主幹事方式を導入しました。その後、この2つの事例が出たことを背景に、主幹事方式が市場公募地方債を発行する自治体の中で一定程度、普及していきます。正確には、横浜市が自治体として初めて主幹事方式を導入(20年債の起債)*10し、東京都の超長期債がそれに続きました。横浜市が最初の事例ではあるものの*11、東京都は、主幹事方式を導入するにあたり、「都債発行に関する制度改革検討委員会」を立ち上げ、「『都債発行に関する制度改革検討委員会』報告」(東京都,2003年)を公開したことで注目をうけました*12。同検討委員会は都庁および外部有識者で構成され、2002年12月から国内外の公社債の発行方式の比較検討等を行い、安定的な調達と低コストを両立できる方式を検討しました。検討事案については、シ団引受方式から主幹事方式への移行に加え、主幹事証券の選定方法、プライシングの方法、年限の多様化等が議論されました*13。図表4が同委員会の提言内容ですが、「市場原理の導入による適切な都債発行を実施するため、都は、現行の条件決定方式から離脱し、主幹事方式に移行すべき」*14とあり、この提言をうけて、東京都は超長期債について主幹事方式をとりました。石田・服部(2024)で説明したとおり、2テーブル方式が導入されて以降、東京都とその他の自治体で金利差が生じうる構図になったわけですが、主幹事方式を採用してマーケットを重視した発行をする理由として、実際にはその金利差がほとんど生じておらず、そのことが都民のコスト増につながっているという問題意識もありました。図表5は東京都と他の団体(第2テーブル)の発行条件の推移を示していますが、発行金利に差がほとんど生じていないことが確認できます。この背景として、「都債の条件決定に至る経過が不透明であり、引受に競争原理も働いていないとの指摘を受ける中で、高コストな構造となっていることを表している」*15としており、「コスト高は、結局は東京都民の負担に帰することとなるため、早急な改善が必要」*16としています。 26 ファイナンス 2024 Jul.

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