ファイナンス 2024年7月号 No.704
29/94

ファイナンス 2024 Jul. 25(出典)地方債協会(2010)メリットデメリット*8) 小西(2011)は「ALMの観点では、3年以下の預金で資金を調達している金融機関では長期債の引受に制約がかかるだけでなく、同一貸付先への与信が集中することを避けなければならない」(p.43-44)、「生命保険会社の場合には、ALMの観点では保有資産の長期化が望ましいことから、長期債である地方債を歓迎する傾向がある」(p.44)としています。*9) 日本経済新聞(2023/7/8)は「地方債、横並びに風穴―都・横浜が改革先導(ポジション)」では「総務省は都と横浜市の主幹事方式などによる超長期債発行は容認した。しかし十年債への主幹事方式導入は『自治体への影響が大きい』(同課(筆者注:総務省地方債課))と慎重姿勢だ」としています。(1)入札方式・相場が安定している場合、競争性が高く、低利な発行条件の獲得が期待できる。・発行条件決定に係る過程の透明性が高い。・市場環境が悪化している場合、不安定な調達や未達となる可能性がある。・金融機関による引受競争が過熱し、実勢価格から乖離しすぎると、市場に影響が出る場合がある。(2)シ団引受方式・複数のシ団メンバーによる引受であり、予定日に予定額の引受が行われることによって、各シ団メンバーの幅広い投資家層(ホールセール・リテール)への販売による安定した消化が期待できる。・起債運営に関する基本的な枠組みが確立しており、起債事務を効率的に行うことができる。・複数のシ団メンバーから「引受可能な条件」が提示されることから、発行条件の水準が把握し易い。・シ団メンバーによる投資家への定期的な情報提供等も可能となり、継続的な安定消化の一助となる。・条件交渉が条件決定日の前日に行われることが多く、この場合、シ団が価格変動リスク(オーバーナイトリスク)を負う。・条件決定日の設定に機動性が欠ける。・シ団に引受能力の乏しいメンバーがいる場合、流通実勢に悪影響を及ぼす可能性がある。・シ団メンバーが固定化されやすく、適切な競争が働きにくい場合がある。(3)主幹事方式・主幹事を通じて投資家の需要を把握することができる。とくに超長期債など、特定の投資家層がターゲットとされる場合等は、投資家の動向を捕捉しやすい。・投資家需要が旺盛な時には、低利調達が可能な場合がある。・主幹事を中心とした少数メンバーにより起債運営が行われるため、市場環境、投資家需要に応じた効率的、機動的な起債が可能である。・複数の主幹事候補会社の提案を競わせることで、一定の競争性が確保される。・需給が軟化している状況においては、発行総額の需要の積上げを前提とすると、シ団引受方式に比べ、想定以上に発行コストが高まる可能性がある。・機動的な発行が可能であるが、条件決定日などを事前に公表しないこともあり当該主幹事が対象としない投資家が投資できないこともある。図表3 入札方式、シ団引受方式、主幹事方式のメリット・デメリット主幹事方式入門 2.4 主幹事方式のメリットとデメリット超長期債の発行が進んだ背景には、地方債市場の自由化が進み、年限の多様化が図られる中、地方債の安定消化に向けて、生命保険会社などの機関投資家など、従来の投資家以外も取り込む必要があったからとされています*8。前述のとおり、主幹事方式は投資家の需要をより反映した起債方法であるところ、従来にはなかった超長期債が発行される中で、シ団引受方式でなく、市場の意見を反映しやすい主幹事方式が取られたと解釈できます。超長期債の起債で主幹事方式の採用が進んだ理由として、総務省が、東京都と横浜市に対して、20年債などの超長期債において主幹事方式を用いることを容認したことも挙げられています。一方で、10年債の主幹事方式の採用については総務省が「自治体への影響が大きい」*9として、当初慎重な姿勢を示したことも指摘されています(その後、主幹事方式を用いた10年債の発行が始まりますが、その点は後述します)。本節の最後に、主幹事方式のメリットとデメリットについて、他の発行方式と比較しながら議論します。地方債協会(2010)によると、(1)入札方式、(2)シ団引受方式、(3)主幹事方式の各方式のメリット・デメリットは図表3の通り整理されています。今日の市場公募地方債においては、前述のとおり、基幹年限の5年、10年債は主にシ団引受方式で発行されている一方で、超長期債については主幹事方式で発行される傾向にあります。シ団引受方式に比べて、主幹事方式と入札は市場の評価を重視した発行方式と指摘されます(次節で、東京都や横浜市が市場を重視する中で、主幹事方式を導入した経緯を説明します)。もっとも、市場の評価を重視するといっても、主幹事方式と入札のどちらが望ましいかは簡単には判断できず、経済学でもどちらが望ましいかは長く研究されているトピックです。その上で、我が国の実態として、国債を除く大部分の発行体が主幹事方式を導入しているという意味で、主幹事方式の方が広い主体に受け入れられている方式といえます。地方債は、その信用力・発行頻度・発行額等の観点で、国債と社債の間に位置することから、国のよ

元のページ  ../index.html#29

このブックを見る