2.2 主幹事証券とはファイナンス 2024 Jul. 23(出所)筆者作成発行体投資銀行部門発行したい金利を提示調整調整証券会社内シンジケート部マーケット投資家部門購入したい金利を提示図表1 引受(主幹事方式)のイメージ主幹事方式入門 *6) 投資家に販売するセクションにはリテールセクションもありますが、債券は機関投資家に販売することが多いので、ここでは機関投資家向けサービスを担うマーケット部門を前提とした説明をしています。なお、債券については、個人向け社債や個人向け地方債も存在する点に注意してください。とおり、例えば、ダッチ方式であれば、入札の形で表明された需要曲線と供給曲線が交差する価格で一律に発行がなされます。一方、主幹事方式と呼ばれる方式では、主幹事証券と呼ばれる証券会社を主軸に、証券会社が発行する債券を一時的に在庫として抱え、発行体と投資家が折り合える価格を決めます。そもそも「引受」とは、発行体が有価証券を発行する際、主に証券会社が販売することを目的に当該有価証券を取得することを指します。図表1がそのイメージですが、証券会社における投資銀行部門が発行体サイドが望む価格(金利)を伝える一方、典型的にはシンジケート部と呼ばれる部署を通じて、マーケット部門*6がその情報を投資家に伝えます。例えば、発行体が一定の金利で発行したい場合、シンジケート部を通じてその情報を投資家に伝達します。その金利が投資家の目線から見て低すぎれば、投資家の需要が募れる金利を再びシンジケート部を通じて発行体に伝えます。そのプロセスを繰り返すことで、発行体と投資家が折り合える金利(価格)を模索していきます。証券会社の中では、発行体サイドとやり取りするセクションと、投資家とやり取りするセクションが厳格に分かれており、情報の遮断がなされています。この遮断を「チャイニーズ・ウォール(情報遮断)」といいます。というのも、発行体はできる限り低い金利で資金を調達したいですし、投資家はできるだけ高い金利で運用したいと考えますから、その間には利害関係が存在します。したがって、証券会社の中で、発行体サイドの対応をするセクション(投資銀行部門)と投資家サイドを対応するセクション(マーケット部門)との間で情報を遮断することにより、利益相反が生まれないような工夫をしているわけです。上述のとおり、主幹事方式とは、証券会社を通じて発行体と投資家が折り合える価格を模索する方式といえます。このような点も踏まえて、主幹事方式は、地方債の自由化が始まる前から用いられていたシ団引受方式に比べて、より市場の評価を重視した発行方法であると指摘されます。地方自治体は、公募地方債を起債する場合、上記のプロセスを担う証券会社を選定します。引受を行う証券会社を「引受証券(引受会社)」といい、そのうち契約などについても担う証券会社を「幹事証券」といいます。さらに、その中でも、条件決定やドキュメンテーションなども担う証券会社を「主幹事証券」といいます。このように、実際の引受には多くの証券会社が関わるので、引受を行うために、引受を行う証券会社で構成される「引受シンジケート団」を作ります。「主幹事証券」という名称に「主」という表現があるため、主幹事証券は一社だけと思われるかもしれませんが、複数社が主幹事証券になるケースも少なくありません。一社だけが主幹事になる場合、単独主幹事証券と呼ばれる一方、複数の場合は共同主幹事証券などといわれます(そのうち中心的な役割を果たす証券会社は筆頭主幹事証券(トップレフト)などと呼ばれます)。地方債の起債において主幹事方式をとる場合、典型的には2-3社の主幹事証券を決めますが、主幹事証券を何社選定するかはケース・バイ・ケースです。地方債の主幹事方式では、証券会社に提案などを求めることにより、一定期間の発行を担う主幹事証券を定める形をとることも少なくありません。社債などに
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