ファイナンス 2024年7月号 No.704
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https://sites.google.com/site/hattori0819/*1) 本稿の意見に係る部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者らによるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿の作成にあたっては、横浜市財政局資金課の古川聡課長および佐々木俊弘係長などからコメントをいただきました。*2) 客員研究員*3) 特任准教授*4) 国債については以前はシ団引受方式が用いられており、入札へ変更されましたが、詳細は齋藤・服部(2023)を参照ください。*5) 下記を参照 2.主幹事方式2.1 主幹事方式とは1.はじめに本稿は市場公募地方債の発行方法の1つである、主幹事方式について解説することを目的としています。地方債の発行方法としては、主にシ団引受方式、入札方式、主幹事方式、さらにこれらの組み合わせがあります。本稿で取り上げる「主幹事方式」は、(国債を除く)債券の起債で最も広く使われている手法であり、地方債では特に超長期債を中心に普及しています。の採用とは、(国債を除く)債券発行で広く用いられる方式への移行と解釈することもできます。本稿では主幹事方式の基本的な仕組みを説明した後、主幹事方式がその他の発行方法に比べどのような特徴があるかを議論します。また、主幹事方式が導入された背景を考えるため、自治体において最初に主幹事方式を導入した東京都と横浜市の事例を紹介します。紙面の関係で、取り上げられない話題については次回以降の論文で説明します。石田・服部(2024)で指摘したとおり、一般的に、地方債といえばいわゆるローンの形式を含む銀行等引受債なども含みますが、本稿では主幹事方式を説明することを目的としていることから、有価証券の形式をとる市場公募地方債を前提に議論を展開する点に注意してください。なお、筆者(服部)が記載してきた債券入門シリーズは、ウェブサイトにまとめて掲載してあります*5。地方自治体が地方債を発行する場合、投資家と発行体(=地方自治体)が折り合える価格(金利)を探す必要があります。国債の場合、入札を実施することにより、この価格(金利)を模索します。具体的には財務省が発行額をまず定め、その金額をもとに投資家がプライマリー・ディーラー(Primary Dealers, PD)などの証券会社を通じて札を入れて発行価格を決めます。石田・服部(2020)や服部(2023)で説明した 22 ファイナンス 2024 Jul.石田・服部(2024)では大阪府を事例に入札を活用した発行方法(引合方式)を説明しましたが、主幹事方式とは、発行体が債券を発行するために、証券会社が一時的に当該債券を在庫として保有して投資家に販売する方法です。この手法は「引受(アンダーライティング)」と呼ばれ、社債などの発行で広く用いられています。シ団引受方式も「引受」という表現を含むことから引受の一種と解されますが、現在、地方債を除き、シ団引受方式を用いることが稀であることから、実務的に、引受という場合、「主幹事方式」を指すことがほとんどです。*1*2*3現在でも5年・10年の市場公募地方債の起債についてはシ団引受方式が広く用いられていますが*4、主幹事方式については、本論文で紹介する東京都と横浜市が2003年に超長期債の発行に主幹事方式を活用し始めました。その後、特に超長期債の発行において主幹事方式の活用が普及し、今では、全年限の市場公募地方債を主幹事方式で発行する自治体もあります。前述のとおり、主幹事方式とは他の債券で広く用いられている方式であることから、自治体による主幹事方式財務総合政策研究所 石田 良*2/東京大学 服部 孝洋*3主幹事方式入門―市場公募地方債を事例に―*1

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