・ 「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」を開催しています ファイナンス 2024 Jun. 57財務総合政策研究所では、「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」を開催しています。今回は、第5回(4月23日)の議論の模様をご紹介します。「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」メンバー○座長・宇南山卓(京都大学経済研究所教授/財務総合政策研究所特別研究官)○委員(50音順)・古賀麻衣子(専修大学経済学部教授)・佐々木百合(明治学院大学経済学部教授)・田中賢治(帝京大学経済学部教授)・戸村肇(早稲田大学政治経済学術院教授)・松林洋一(神戸大学経済学研究科教授)https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2023/junkan.html※なお、研究会における報告内容や意見はすべて発表者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。「高齢化と家計資金余剰」古賀 麻衣子 専修大学経済学部教授委員の古賀教授からは、家計の資金余剰は続くのか、特に、高齢化や労働市場の変化によってこの家計貯蓄の蓄積が進むのか、減速するのかという問題意識からのご報告をいただきました。具体的には、以下のご指摘がありました。本研究会の発表資料等は、財務総研のウェブサイトからご覧いただけます。・家計の金融資産が高齢者に偏在していることを踏まえると、高齢化の進展にともなって、ストックベースでみた家計資金余剰は高水準を維持すると思われる。・労働市場の近年の構造変化が、家計の資金余剰に与える影響については、(1)賃金カーブのフラット化、(2)年金の所得代替率低下、(3)高齢者の就業率上昇、(4)女性の労働参加率上昇が、それぞれ貯蓄にどう影響を与えるかに分けて考えることができる。・(1)については、教育支出や世帯人員の影響を強く受ける年齢階層ごとの消費水準が、賃金カーブのフラット化にともなってどの程度低下するか次第である。(2)については、厚労省の推計によれば、年金の所得代替率は低下の見通しであり、この傾向が続くとすれば、貯蓄減少につながる。・(3)と(4)については、高齢者・女性とも現状は非正規雇用の比率が高い層であるため、労働参加率の上昇に見られるほど所得形成が力強いものとはならないと考えられる。一方で、高齢者や女性が有業の世帯は消費性向が低い傾向も観察されるため、就業による所得増加は、貯蓄をある程度押し上げる。「海外直接投資の新たな潮流とマクロ経済:資金循環の視点から見た展望」松林 洋一 神戸大学経済学研究科教授委員の松林教授からは、国内へ投資される資金が海外へ移動し、対外直接投資が加速するなどグローバルな資本ストック調整が見られる今日の日本経済において、新たな成長の原動力の可能性を探る問題意識からのご報告をいただきました。具体的には、以下のご指摘がありました。・これまで蓄積された対外直接投資を国内経済の成長に組み込むメカニズムとして、(1)海外で稼いだ投資収益が国内に還流して、設備投資や、国内所得・消費を増やす、(2)海外進出した現地法人向けの輸出による所得の増加、(3)企業価値の向上という3つのメカニズムが考えられる。・(1)については、米国では2004年の「雇用創出法」で、外国子会社の収益を配当として米国内に還流さ
元のページ ../index.html#61