[コロンビア大学での様子]吉元:共同研究は、先生方と財務総研職員が共同で研究活動を行うスタイルをとっています。円滑に共同研究を進めるためには、両者を繋ぐ役割が必要です。研究者の立場と行政の立場、両者の事情を汲み取り、相互に伝えることができるコネクターとして、研究官という立場だからこそ貢献できることがあるのではと思っています。共同研究では、行政目的で収集され、機微な情報を含む輸出入申告データを用いるというその性質上、研究成果を公表するまでのプロセスにおいて守らなければならないルールがあります。そのため、先生方に対しては、研究を進める中で、このようなルールについてご理解をいただけるよう前もって丁寧に説明します。一方で、関係する財務省職員の方々には、公表に至った先生方の研究成果について、その内容をわかりやすく説明するなど、相互の理解が深まるよう、両者と常に密なコミュニケーションを取るように心がけています。浅井:行政の立場からは研究者の方々の意見がなかなか見えづらい部分があると思いますが、経済の専門家として、外部の先生方と財務省職員の橋渡しになっていただいているのですね。先日はこの共同研究について、海外で研究報告を行ったと伺いました。そのときの様子を教えてください。吉元:アジア研究において先進的な存在である米コロンビア大学で、筆頭著者である吉田裕司先生(滋賀大学)、清水順子先生(学習院大学)、吉見太洋先生(中央大学)と共に、2月に研究発表を行いました。世界の経 52 ファイナンス 2024 Jun.を進める中で、財務総研に在籍しているからこそ得られた利点はありましたか?桃田:私が財務総研に3年間在籍することで得られた一番の利点は、各府省等が公表する政府統計の個票データを利用できた点です。政府統計にあまり詳しくない研究者にとっては、データを使い始めるハードルは非常に高いです。日頃の業務でそのようなデータに触れてきた経験によって、政府統計を使った研究が可能であることが自分の思考回路に加わりました。今後財務総研を離れて自分の研究を進めるときに、研究手法の幅がかなり広がったと思います。また、私がこれから行おうとしている研究は、財務省での経験が無ければ思いつきもしなかったものがほとんどです。財務省の職員は、実際に政策を立案する立場なので、社会問題への意識が高いですよね。そんな職員との会話や日頃の業務の中で、新たな研究のきっかけに出会うことができました。例えば、私は2022年度、2023年度と財務総研の研究会に参加しました。研究会で取り上げられた近年の社会問題について調べるうちに、自分の得意とする分野の議論と組み合わせることができるのではと思い立ち、これから研究を進めようと考えています。吉元:財務総研に在籍していると、経済学の著名な先生方と日頃からコミュニケーションを取ることができます。共同研究や財務総研で開催する会議などで外部の先生方が財務省にお越しになるため、直接お話ができる貴重な機会を得ることができています。著名な先生方と研究についてお話できること自体学びの多いものですし、今まで関わることのできなかった方々とのやりとりの中で、研究に対する知見や、新しい研究アイディアが得られる可能性もあると思います。浅井:吉元さんは、財務省の職員として、公募で採択されたプロジェクトについて、研究者とともに輸出入申告データを活用した共同研究に参画されていらっしゃいますね。これまで研究運営に対してどのように貢献されてきたのか教えてください。
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