ファイナンス 2024年6月号 No.703
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【事業選定の課題】・取組の質を年々上げている中で、令和4年度の選定事業をみると、フルコストの金額が僅少である事業、事業コストとフルコストが殆ど変わらない(人にかかるコスト、物にかかるコストが殆ど配分されない)事業など、各省庁の代表的な事業もしくはフルコスト情報が効率化・適正化に資すると期待しがたい事業も一部見られる。そのような実態も踏まえ、今後は各省庁と協議しながら、受益と負担の関係性が分かり易い受益者負担事業型をはじめ事業別フルコスト情報に馴染む事業の選定を一層進めていく必要。【各省庁への浸透・定着の課題】・事業別フルコスト情報の作成・活用に関しては、作成主体である各省庁との間に未だ温度差があることから、より効率的かつ効果的な作成の の効率化・適正化に資する財務情報の提供等を目的に、企業会計の考え方及び手法(発生主義・複式簿記)を活用して、毎年度、国の財務書類及び事業別フルコスト情報を作成・公表している。ファイナンス 2024 Jun. 35令和4年度事業別フルコスト情報の改訂今後の取組これまで述べたとおり、令和4年度事業別フルコスト情報(ダイジェスト版)の改訂により、経年比較・横断比較情報が記載され、各事業の相対的位置が容易に把握できるようになった。これにより、各事業担当者において、受益者負担事業型では利用料・手数料などの自己収入の見直しや利用者数増加のための広報戦略といったマネジメントの意識が高まる、補助金・給付金事業型では事業従事者数の見直しをはじめコスト意識をもって実施されているかの点検が可能になるなど、行政活動の効率化・適正化への気づきに繋がることが期待される。その上で、「事業別フルコスト情報の開示」の取組を今後進めていくに当たり、現時点では以下の課題があると考えられる。ため、各省庁への説明会や研修を通じて、引き続き、本取組に対する一層の浸透・定着を図る。また、各省庁に今後継続的にモニタリングしていく中で、行政活動の効率化・適正化にフルコスト情報が活用された好事例(グッドプラクティス)があれば、それを横展開していく必要。【認知度向上の課題】・事業別フルコスト情報については、令和2年度分の本格実施から3年目ということもあり、各省庁に限らず、一般的にも認知度が十分であるとは言えない中、今後も認知度向上を目的に、国の事業の執行状況や資金の流れを点検する行政事業レビュー(内閣官房行政改革推進本部事務局)と連携するなど各種媒体からのアクセスチャネルを増やし、情報発信を一層進めていく必要。このような課題を段階的に解消しつつ、事業別フルコスト情報の質を高めていくことで、各事業担当者のコストやマネジメント意識を更に高め、将来的には財政当局における予算査定に活用されることも念頭に、引き続き、行政活動の効率化・適正化を一層図るとともに、経年比較・横断比較情報の見える化を推進していく。なお、これらの課題に関しては、令和6年5月、第213回国会(参議院決算委員会若松謙維君に対する矢倉財務副大臣答弁)においても、今後段階的に取り組んでいく旨答弁されている。末尾に、本稿の意見に亘る部分については、筆者個人の私的見解であり、政府や財務省の公式見解ではない旨申し添える。以上コラム:主計局法規課公会計室の紹介主計局法規課公会計室では、公認会計士である室長(民間からの出向者)以下約10名の体制で、大きく「国の財務書類」、「事業別フルコスト情報」をそれぞれ作成する係で編成されている。主な業務としては、国の財務状況等に関する説明責任の向上及び予算執行

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