ファイナンス 2024年5月号 No.702
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[執筆者プロフィール]*1) 文中、意見に及ぶ部分は全て筆者の私見である。本稿は、2023年2月の「PRI Open Campus 〜財務総研の研究・交流活動紹介〜,カンボジア経済*2) カンボジア国立銀行等の政府関係機関からのヒアリング。*3) 2019年時点のカンボジア金融機関の平均的な預金金利はドル建てで4.9%、リエル建てで6.2%となっている(UNCDF(2022)「Access to Finance of Micro, Small and Medium-Sized Enterprises(MSMEs)in Cambodia, MSME Financing Series No. 2(Bangkok, United Nations 2022)」)。*4) 66%の中小企業が金融アクセスを自社の課題と回答(同、UNCDF(2022))。*5) カンボジアでは、中小企業を対象に、財務諸表の作成・提出を義務付ける法律が2016年に公布され、2022年からは罰金規定付きで施行されており、*6) 詳細はコラム(1)参照。*7) ベトナム社会政策銀行、マレーシア中小企業銀行、ラオス開発銀行及びミャンマー経済銀行。*8) 詳細はコラム(2)参照。情勢及び中小企業金融の現況について」の続編。提出企業数は増えたものの、財務諸表と企業実態との整合性に課題がある(経済財政省等からのヒアリング)。田畠 秀高 国際交流課長2005年財務省入省。在ニューヨーク総領事館、関東財務局等の勤務を経て、2023年7月より現職。斉藤 真之 研究員2013年、株式会社日本政策金融公庫へ入庫。中小企業への資金支援や支援施策の企画立案に携わる。2023年4月、財務総研へ入所し、本支援を担当。財務総合政策研究所 総務研究部 国際交流課 課長 田畠 秀高同 研究員 斉藤 真之財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)は、アジアの開発途上国に対する知的支援を行っており、その一環として、日本政策金融公庫国民生活事業(以下、「日本公庫」)と連携する形で約20年にわたり中小企業金融支援を実施してまいりました。今月のPRI Open Campusでは、昨年6月に開始し、現在取り組んでいるカンボジア中小企業銀行(SME Bank of Cambodia(以下、「SME Bank」))に対する支援について、支援開始の経緯から同年11月に日本公庫と協力してプノンペンで開催した創業支援セミナーの概要を紹介し、カンボジア政府からどのような期待が寄せられているかを説明します。*1311.支援経緯カンボジアにおける中小企業の多くは、金融機関から融資を受ける際、不動産担保を要求されたり*2高金利を設定されたり*3することが障害となり、十分な資金を調達できないという金融アクセス上の問題を抱えています*4。財務総研はSME Bankや経済財政省等へのヒアリングを通じ、融資審査時の担保依存度の高さ等の金融機関側(貸し手)の課題を把握しました。他方で、事業を開始してから間もない等の事情により財務基盤が弱い事業者(借り手)は、一般的に金融機関に提供可能な不動産担保を十分に有していません。加えてこれらの事業者は、財務諸表の整備が不十分*5かつ商業登記もしないことが多いため、金融機関が事業者の実態を把握できず、必要な融資に繋がらない状況となっています。カンボジア政府は、こうした課題に対処すべく、2020年2月に政府系金融機関としてSME Bank*6を設立しました。SME Bankは経済財政省傘下の機関であり、政府方針に基づき中小企業金融を担う役割が期待されています。財務総研は、日本公庫の協力の下、これまでにベトナム、マレーシア、ラオス及びミャンマーの4か国4機関*7に対して中小企業金融支援を実施*8してきました。総じてカンボジア同様、中小企業の金融アクセス 68 ファイナンス 2024 Mayカンボジア中小企業金融支援

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