4 4 終わりに連続3選が認められないジョコウィの次の大統領を選出するための大統領選挙が2024年2月14日に実施され、同年3月20日にプラボウォ国防大臣とギブラン・ソロ市長(ジョコウィ大統領の長男)の正副大統領ペアが当選しました(なお、プラボウォは過去に2度大統領候補として選挙に臨み、ジョコウィ大統領に敗北を喫しています。)。 ファイナンス 2024 May 67*6) ファンダメンタルズの脆弱性がアジア通貨危機の背景にあったとの反省から2003年に国家財政法で財政規律目標を定め、それ以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響下にあった2020-2022年を除いて、この財政規律目標が堅持されてきましたが、次期政権において、この財政規律目標が緩むのではないかという報道も見られます。*7) https://www.goldmansachs.com/japan/insights/pages/path-to-2075-f/report.pdf続いて失業率・就業者数の推移を見ると、失業率はコロナ禍での一時的に増えたものの足下では前政権からほぼ横ばい、就業者数は右肩上がりであることが分かります。しかし、15〜24歳の若年者失業率は依然として高水準で推移しており、雇用創出や求職者と産業界ニーズのミスマッチはまだ課題として残っています。インドネシアの財政状況を見ていくと、アジア通貨危機の反省を踏まえて2003年に国家財政法で財政規律目標(フロー目標:財政収支対GDP比▲3%以内、ストック目標:総債務残高対GDP比60%以内)を定めて以降、インドネシアが健全な財政運営を行ってきているのが分かります。2020年には前述の新型コロナウイルス対策予算として、当時の国家予算額の約4分の1に相当するPENプログラムを実施したために財政赤字が拡大しましたが、2023年には税収が上振れしたこともあって再び財政収支対GDP比▲3.0%以内の水準に戻っています。(IMF World Economic Outlook、ILO STAT、インドネシア統計局より筆者作成)失業率・就業者数の推移(%)20.015.010.05.00.015.7 5.9201120122013201420152016201720182019202020212022就業者数2014年10月ジョコウィ大統領就任(第一期)失業率若年者失業率(15-24歳)14.1 5.9(百万人)130.0120.0110.0100.0▲1.2▲0.7▲1.6▲2.2▲1.8▲2.7▲2.6▲2.3▲1.7▲2.1(参考1)2024年の総債務残高対GDP比はIMFの見通し、2024年の財政赤字対GDP比の値は2025年度予算案の前提となる政府事業計画に基づく。(参考2)2020年には新型コロナウイルス対応のためにフロー目標の超過を2024年まで容認。2023年に税収が上振れしたため1年前倒しで特例措置を解除。(IMF World Economic Outlook、インドネシア財務省より筆者作成)財政収支対GDP比・総債務残高対GDP比の推移(%)2520151050▲5▲10財政収支対GDP比総債務残高対GDP比(右軸)23.0%2014年10月ジョコウィ大統領就任(第一期)(%)50403020100▲10▲2040.1%39.3%41.1%39.9%財政規律ルール(財政収支対GDP比▲3%以内)▲2.2▲1.6▲6.1▲4.4▲2.45~▲2.80201020112012201320142015201620172018201920202021202220232024プラボウォは、これまでジョコウィ政権が進めてきたインフラ開発、資源産業の川下化、新首都移転等のあらゆる政策を継承し、発展させることを強調しつつ、その他に貧困撲滅策として低所得者層向けの住宅建設や目玉施策として学校給食の無償化等を掲げていますが、その対象範囲や財源についてはまだ明らかにされていません*6。インドネシアは巨大な消費者市場、豊富な資源、再生可能エネルギー電源のポテンシャル、堅調な経済成長等を背景に、魅力的な投資先として世界から注目を集めています。また、民間予測*7では2050年時点のGDPランキングはインドネシアが中国、米国、インドに次ぐ第4位になる可能性があると言われていますが、他方で、インドネシアの人口ボーナスは2030年代に終わりを迎えるとも言われ、楽観視はできない状況にあります。そのような中で、中所得国の罠に陥らないためには、地方経済の底上げを通じた持続的な経済拡大及び所得水準の向上、質の高い教育の普及や雇用創出による社会的・経済的な格差是正、実効性のある外資誘致施策及び産業構造の高度化等、バランスの取れた成長戦略の舵取りが重要であることは言を俟ちません。インドネシアの行く末から今後も目が離せません。
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