次に主要都市・インドネシア全体のジニ係数の推移を見ると、ジョコウィ政権が就任してからインドネシア全体で格差が縮小、特にジャワ島以外の地方都市におけるジニ係数が逓減しており、ジョコウィ政権の掲げた空間的な格差の平準化施策が一定の成果を出していることが分かります。他方で、ジャカルタ首都特別州でも所得階層間の平準化施策が執られたものの、富裕層への更なる富の集中が加速したこともあって足下の同地域のジニ係数は上昇傾向にあります。実質GDP成長率・寄与度の推移(%)1086420▲2▲4▲62014年10月ジョコウィ大統領就任(第一期)5.0%6.4%民間消費設備・在庫投資誤差漏洩2010201120142013201220155.3%5.0%▲2.1%政府消費外需実質GDPQ12018(参考)年次データは前年比、四半期データは前年同期比201620172019202020222021(OECD Statより筆者作成)0.450.400.354.9%0.300.25200920102011201220132014201520162017201820192020202120222023(参考1)北スマトラ州にはジャワ島の主要都市を除く中で最大の人口(国内第5位)を擁するメダン(州都)が所在。(参考2)東カリマンタン州には新首都予定地であるヌサンタラが所在。(州都はサリマンダ。国内第18位の人口を擁する。)(参考3)パプア州はインドネシア東端に位置するニューギニア島の州。貧困層人口が最も多い。(州都はジャヤプラ。国内第38位の人口を擁する。)(インドネシア統計局より筆者作成)Q3Q22023ジニ係数の推移0.502014年10月ジョコウィ大統領就任(第一期)0.414北スマトラ州東カリマンタン州0.388ジャカルタ首都特別州パプア州おいても交通渋滞や港湾の混雑問題等が依然として解消されていません。・雇用創出や貧困削減についてもまだ改善の余地があり、高止まりした若者の失業率や地方、農村部における雇用機会の不足等の解決のために適切な職業訓練や教育制度、地方経済の振興が求められます。・外資誘致のための投資環境改善も一定程度の成果は見られますが、まだ規制の複雑さ、不透明な制度運用、非関税障壁や最低資本金・最低投資額を中心とした保護主義的措置が依然として残っているほか、政策や法規制の変更が頻繁に行われるため事業の予見可能性が低く企業の不確実性が高い状況にあります。・EV向けのリチウムイオン電池は、ニッケル、マンガン、コバルト等のレアメタルを主成分とする高価な三元形正極材(NMC)電池と相対的な安価なリン酸鉄リチウム(LFP)電池があるところ、LFP電池はNMC電池よりもエネルギー密度が低く、航続距離が短いという短所がありますが、技術進歩に伴ってLFP電池がNMC電池の性能に追い付きつつあります(さらにニッケルの代わりにマンガンを電池の正極に使用するリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)電池やレアメタルフリーのナトリウムイオン電池(NIB)等の開発も進んでいます。)。このような技術革新を背景に、LFP電池が(潜在的にはLMFP電池やNIBも)市場シェアを伸ばしており、ニッケルに重点を置いたEV向けバッテリーのエコシステム構築がジョコウィ政権の描いた計画どおりに進むかは雲行きが怪しくなってきています。・新首都移転に要する約490兆ルピア(約4.6兆円)のうち8割を民間投資及びPPPで賄うことを予定していますが、インドネシア政府の掲げる首都移転計画の進捗にばらつきがあるほか、そもそも政権移行後に計画が見直されるリスクを懸念して、多くの海外投資家は投資判断に踏み切れず、財源確保に苦労しているのが現状です。コラム3ジョコウィ政権の経済・財政状況2010年から足下のインドネシア実質GDP成長率を見ると、ユドヨノ前政権後半が平均6%弱であったのに対し、第一次ジョコウィ政権は平均5%で推移し、大統領就任当初の「7%の経済成長の実現」という公約は達成できませんでした。第二次政権発足後の2020年には、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、実質GDP成長率がアジア通貨危機以来のマイナス値▲2.1%(対前年比)まで落ち込みましたが、パンデミックの影響緩和、景気回復の促進を目的とした国家経済復興(PEN)プログラムを導入した結果、翌2021年にはプラス成長に戻り、足下では再びコロナ禍前の水準にまで戻っています。 66 ファイナンス 2024 May
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