ファイナンス 2024 May 65*4) 法律形式や条文のミスに加え、審議過程の公開性等の立法過程に瑕疵があるとして、2021年11月に憲法裁判所で条件付違憲判決が下されましたが、2022年に雇用創出法に関する法律代行政令が施行され、同法律代行政令は2023年3月に国会審議を経て正式に法制化されました。*5) 首都移転計画のスケジュールは以下のとおり5つのフェーズに分けて進められる予定になっています。 フェーズ1(2022〜2024年):道路や電気、水道等基礎インフラの敷設と行政、立法、司法等の機関の移転フェーズ2(2025〜2029年):工業団地や観光関連施設等ビジネス促進のための複合エリアの開発フェーズ3(2030〜2034年):水道や電力、ゴミ処理インフラの拡張や輸送システムの開発、工業団地等拡大フェーズ4(2035〜2039年):スマートシティに向けた実装、教育やヘルスケア分野への注力フェーズ5(2040〜2045年):全ての中央政府の機関と機能の移転完了通じた経済転換等を選挙公約に掲げたジョコウィ大統領が2019年の大統領選挙でも再選しました。2期目は1期目に進めた政策の持続、改善、深化に取り組みました。まず、第一次政権でも依然として高い水準で推移していた若年者失業率の改善に向けた人材育成施策として、産業界のニーズと求職者の技能とのミスマッチ解消、製造業の生産性向上を図るために、これまで初頭・中等教育の拡充に力点を置いてきた教育政策を、高等教育・技能教育の質向上にシフトすべく、職業高等学校や技術教育センターの整備、産業界と連携した職業訓練プロクラムの拡充、STEM教育(科学、技術、高額、数学)の推進等、生徒の幅広い産業分野における技術の習得、能力の向上を支援しました。2014年に開始された社会保障制度を国民皆保険制度とすべくカバー範囲の拡大を押し進めて、2021年12月時点での当該制度への加入者は全国民の86%(約2億3,500万人)にまで拡がったほか、加入者の給付水準ニーズに応じた医療サービスを受けられるように、民間保険会社と協調して給付調整プログラムを新たに運用開始する等、社会保障プログラムの拡充に取り組みました。前任期中の外国投資誘致策を継続・強化するために、(1)官民連携プロジェクト(PPP:Public Private Project)を通じた民間セクターからの資金調達や技術供与の実現、(2)特定産業や特定地域にかかる外国企業に対して税制優遇、規制緩和等の投資優遇措置が提供される経済特区(SEZ:Special Economic Zone)の創設、(3)残業規制や産業別の最低賃金規制、解雇規制の緩和を含む労働規制改革や雇用契約の柔軟化する「雇用創出オムニバス法」の制定*4等を実施しました。また、第二次政権では国内製造業の活性化、質の高い経済成長をさらに進めることに力点を置いた外資の呼び込みを実施しています。ジョコウィは「産業の川下化」に注目し、特に国内の豊富な鉱物資源を最大限活用すべく、付加価値を高めるための資源加工産業の育成、産業構造の転換の実現に向けた各種施策を打ち出しています。その一例として、インドネシアが世界の埋蔵量の約2割を占めるニッケルが電気自動車(EV)のバッテリーの主要原料であることに着目し、(1)未加工ニッケル鉱石の輸出を禁止するとともに、(2)ニッケル加工・製錬企業をインドネシア国内に積極的に誘致することで、高付加価値のニッケル関連産業の成長加速に一定の成功を収めました。また、ニッケルの主な大規模な生産拠点はジャワ島以外であるため、この産業下流化政策は、産業競争力の向上だけなく地方の新たな雇用機会の創出、地方経済の振興にも貢献することが期待されています。今後、同政権はインドネシア国内におけるEVバッテリーエコシステムの構築を目指して、(1)バッテリーメーカー、自動車メーカー等向けの税制優遇措置を行うほか、(2)国内で産出されないリチウム等の安定的な調達確保、(3)ASEAN諸国等と技術やリソースの共有、市場の拡大を図るべく周辺諸国と地域間連携・協力を進めています。これらの動きに呼応してか、ベトナムのビンファストや中国の比亜迪(BYD)、ドイツのBMWがインドネシア国内での工場建設計画を表明しています。また、ジョコウィ大統領のレガシーになるであろう、ジャカルタからカリマンタン島東部のヌサンタラ(“Nusantara”ジャワ語で「群島」)への首都移転構想*5は、2019年8月に提案されたときは熱帯雨林が生い茂るような地域に移転できるのか俄に信じがたいと思われていましたが、基礎インフラの敷設、行政・立法・司法等の公的機関の移転に向けて(計画どおりとまではいきませんが)着実にインフラ整備が進められており、ジョコウィ大統領は2024年8月17日の独立記念日式典はヌサンタラで開会すると公言しています。このように書くと、いかにもジョコウィ政権がうまく政策運営しているかのように見えますが、次のようにまだまだ多くの課題が積み残されています。・2期にわたって地方・農村部の交通インフラ整備に注力したもののまだ道半ばで、経済格差の是正のためには更なるインフラ投資が必要であり、都市部に
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