ファイナンス 2024年5月号 No.702
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政治経済文化9つの優先的アジェンダ1.全ての国民を護り安心感を与える国家の実現2.清廉で効果的で民主的で信頼される行政ガバナンスの構築3.各地方と村落の強化、辺境からのインドネシアの発展4.汚職のない、品格のある、信頼される法堅持システムに向けた改革の実行5.インドネシア人の生活の質向上6.国民汚職のない、品格のある、信頼の生産性と国際市場における競争力の向上7.国内経済の戦略部門の活性化、経済の自立性の実現8.国民性に対する改革の実行9.インドネシアの多様性強化、社会的復興の推進米国での同時多発テロ後の国内イスラム勢力への対応や翌2002年に発生したバリ島のテロ事件への対応におけるリーダーシップの欠如、イラク戦争勃発に伴う物価上昇による国内経済の悪化等が重なり、国民からの支持は伸び悩んでいました。このような国際社会の混乱、アジア通貨危機後の経済停滞等に苦しみつつも、これら3代の大統領政権下でインドネシア憲法は4回改正され、三権分立、自由と人権の保障、大統領直接選挙制等の民主主義制度の基礎が築き上げられました。そして、2004年の建国史上初の大統領直接選挙により、陸軍出身のスシロ・バンバン・ユドヨノ第6代大統領が選ばれました。ユドヨノは、徹底した汚職撲滅、アチェ分離運動との和平合意、テロ発生の抑制、外国投資の回復を通じた平均6%近くの堅調な経済成長等の成果をあげました。これらの政治的安定、順調な経済を背景に2009年の大統領選でも国民から圧倒的な支持を得て再選、10年にわたる同政権のもとインドネシアは「安定と成長」を取り戻しました。このような政治的・経済的に安定した政策運営をやり遂げたユドヨノ大統領の任期満了を受けた2014年の大統領選挙では、ジョコ・ウィドド(愛称「ジョコウィ」)候補とプラボウォ候補が争った結果、非政治エリート出身のジョコウィ候補が、庶民目線の政治を行うことを期待され、第7代大統領として当選しました。ジョコウィ政権は、9つの優先アジェンダ(“Nawacita”(サンスクリット語で「9つの思想」)に基づいて、ユドヨノ前政権に引き続き反腐敗政策や成長戦略に取り組みましたが、前政権との大きな違いは経済成長を目指すだけでなく、その成長から得た果実の分配にも注力している点が挙げられます。具体的には、貧困層・低所得者層の底上げという所得階層間の平準化だけでなく、地方、農村部、辺境地という経済的に脆弱な地域との格差是正という空間的な平準化を含んでいます。例えば、インフラ開発では、ジャワ島やスマトラ島等の地方主要都市を結ぶ高速道路・鉄道の拡充、海運物流の改善のための離島地域を含む港湾施設整備、農村地域での道路整備や灌漑施設整備等に取り組み、地域経済の発展促進と成長戦略としての連結性拡充の両立を目指しました。また、経済的に脆弱な地域の地方自治体に十分な財政支援を行い、地域の状況に応じた公共サービスの提供や地域開発の推進、福祉の向上を可能にする地方交付税交付金制度を重要な政策の一つに位置付けることで、地方自治体が主体となって地域経済を活性化させ、ひいては地域間の均衡を目指しました。また、ジョコウィ政権は所得階層間の平準化の施策として、社会福祉プログラムの拡充、教育制度改革や医療サービスの拡充を通じた国民生活水準の向上に取り組みました。この中でも特に重要な再分配政策として、これまで職種別で複数の制度に分かれていた保険制度を統合し、全国民を対象とする医療保険制度を2014年に開始しました。これにより多くの人々で保険料を負担し合い、貧困層も含め必要な医療サービスへのアクセスを可能にしました。また、2005年からの世界的な資源ブームや中国との垂直型貿易の拡大を背景に工業化の後退が進んだことに起因する、インドネシア国内の製造業者の約9割が低付加価値、競争力の弱い中小零細企業であるという状況を打開するために、同政権は経済成長加速と雇用創出を目指し、投資環境の整備、外資規制緩和、税制優遇や投資奨励策等に取り組みました。その結果、多くの外国企業による国内投資が促進され、製造業や観光業等の産業が成長して国内総生産の上昇や輸出拡大等の成果を上げましたが、それでもなお、資本集約型、競争力の高い大手地場企業はなかなか育ちませんでした。第一次政権では経済成長が伸び悩んでいたものの、前回の任期で実施したインフラ整備・貧困削減の継続に加えて、人的資本の向上、技術革新とイノベーションを 3 3 ジョコ・ウィドド政権の10年(1)第一次ジョコ・ウィドド政権(2)第二次ジョコ・ウィドド政権 64 ファイナンス 2024 May

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