ファイナンス 2024年5月号 No.702
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ファイナンス 2024 May 61インドネシアの国章*3) イスラム教も国教という位置付けではありませんが、他方で、唯一神への信仰が定められており、無宗教であることは基本的に認められていません。婚姻制度においても、異教徒同士では結婚が認められていないため、片方が改宗する必要があります。(1)唯一神への信仰:各宗教が相互に尊重し合うこと/【中央】黄色の星と黒い盾:一つの星が唯一神を表す(2)公正で文化的な人道主義:国民が相互理解、相互扶助すること/【右下】四角と円形の鎖から成る輪:四角の鎖は男性、円形の鎖は女性を表す(3)インドネシアの統一:国民が国家の利益のために働くこと/【右上】ベンガル菩提樹の木:大地に根を張るベンガル菩提樹が誠実と国家繁栄を表す(4)合議制と代議制における英知に導かれた民主主義:他者を強要しない合議による意思決定を行うこと/【左上】牛の頭:集うことを好む牛が民主主義を表す(5)全インドネシア国民に対する社会的公正:国民が社会の一構成員として、他者を尊重し公正を保つこと/【左下】稲穂と綿花:稲穂と綿花がそれぞれ衣と食を表すIndonesia)が独立後に国語・公用語とされましたが、インドネシア語を第一言語として利用しているのは2割程度に留まり、各地では今でもその地域の言語が日常的に使われ、その総数は700近いと言われています。宗教の観点では総人口の約9割がイスラム教徒であり、インドネシアは世界最多のイスラム教徒を抱える国として知られていますが、憲法で宗教信仰の自由も認められており、プロテスタント、カトリック、ヒンドゥー教、仏教等を信仰している人もいます*3。このように多種多様な文化、言語、宗教が複雑に入り混じるインドネシアは、“Bhinneka Tunggal lka”(インドネシア語で「多様性の中の統一」)というスローガンを1945年の憲法制定時から掲げて、多様性を尊重し合う「パンチャシラ精神」(コラム1参照)がインドネシア国民の心に根付くことにより、一つの民主主義国家としてまとめ上げられています。多種多様な民族から構成されるため、インドネシア人の国民性を一括りに説明するのは困難ですが、一般的に大国意識から来る誇り高さ、面子を非常に重んじる点に特徴があると言われています。そのため、どれだけ理屈が通っていてもインドネシア人を人前で叱責や非難をすると、相手はひどく自尊心を傷付けられたと感じて、一生恨みを募らせるだけでなく後で何倍にもして返してくることもあるので注意しなければなりません。また、インドネシア人は家族や地域コミュニティを非常に大切にしています(コラム2参照)。そのため、人と対立したり、人を不快な気持ちにしたりして社会的調和を崩さないように、直接的な“No”をあまり使わない傾向があると言われています。例えば、Yes/Noでの二択の回答を求める質問にも「検討中」や「また後で回答する」という返事を返してくることが多いです(当初はこのような曖昧な対応をいい加減だなと感じていましたが、彼らのことを知るうちにこれもインドネシア人の「おもいやり」から生じているのだと理解できました。とはいえ、仕事上で困ることも多いのも事実です・・・。)。(2)インドネシア人の国民性コラム1インドネシアのパンチャシラ精神インドネシアをよく知るために欠かせない要素の一つに、インドネシア国民の重要な思考・行動原則であるパンチャシラ精神があります。パンチャシラ(“Pancasila”(サンスクリット語で「5つの徳」)とは、インドネシア共和国憲法の前文で定められている建国の理念を表す5原則のことを指し、インドネシアの国章「ガルーダ パンチャシラ(“Garuda Pancasila”)」の絵柄にも象徴されています。

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