*2) 例えば、佐藤主光「経済を見る眼「コロナ復興特別会計」をつくるべき理由」『週刊東洋経済』(2020年8月22日)などを参照。被災地支援としては、国債購入よりも寄付とか物品の寄贈とか、あるいは人を派遣するとか、より直接的な形で行う方がよいと考えられたのかもしれません。GX経済移行債は、投資家自身もそれを購入することで環境投資に力を入れていることをアピールしたいという気持ちがあると思いますから、脱炭素に使途を絞った国債として出した方が、そうした投資家の購入意欲を取り込めるのではないかということで、あえて分けて出しています。実は、GX経済移行債も個人向けとして出すかどうかの議論がありました。結局今のところは個人向けには出さないことになったのですが、震災からの復興支援のためにお金を出してもよい、と思ってくれる方はそれなりにいるのに対して、脱炭素のために個人でお金を出そうという人は、残念ながら少ないですよね。服部 2020年に始まったコロナ禍の時はどうしたのでしょうか。コロナについてもこうした仕組みをとることもできたと思いますが(そのような提案をする学者もいましたが*2)、特会化はなされませんでした。齋藤 コロナ禍の場合は、収入と支出の紐付きがなかったということだと思います。増発された国債の返済財源として、こうしますというのがはっきり決まっていれば、その将来的な国債の返済財源を収入とし、支出の方で返済していくというのを、会計として切り分けて整理することは考えられると思います。しかし、コロナの場合は、コロナに対応するために様々な多額の支出が追加されましたが、それに伴って増えた国の債務を返すための財源を何か特別に手当しているかといえばしていないので、特会にしようがなかったということだと思います。金額の大きい小さいはありますが、景気が悪いときに国債を増発して経済対策を講じる場合と同じようなやり方になったということです。政府短期証券(FB)と国庫服部 特会とは異なりますが、国庫もわかりにくいと指摘される傾向があると思います。短期的なファンディングのための資金として政府短期証券(Financing Bills, FB)がありますよね。理財局の国債課と国庫課はどのように連携しているのでしょうか。齋藤 特会によっては、FBが出せなくて一時借入金という形をとるケースもあるのですが、FBを中心に、国債課と国庫課のやりとりについてお話しします。年度を通じての予算は、当然、歳入と歳出の金額が見合うように決められるわけですが、実際にお金が入ってくるときと出ていくときのタイミングは異なりますよね。例えば税収でいえば、所得税は毎年2月から3月の確定申告の時期に入ってくる部分が大きいですね。もちろんサラリーマンの方の源泉徴収は、毎月の給料の支払いの時に、年度を通じて税収として入ってきますが、事業を営んでいる方の所得税は、確定申告のタイミングでまとめて入ってくるわけです。また、企業の法人税も、日本だと3月決算の法人が多いので、決算を締めた後5月までに入ってくる部分が多いと思います。そうすると、国に入ってくる収入は毎月均等に一定額ずつという訳ではなくて、波があるわけです。支出の方も、例えば何か大きな公共事業を行えばまとまった支出が発生しますし、最近でいうと、金額的に大きい年金の支払いは原則偶数月なので、2ヶ月に1回山が発生するわけです。あとは地方交付税で地方自治体にお金を渡すのが年に4回で、そのタイミングでもまとまった支払いが発生します。服部 財務省は、図表2を用いて、「国庫収支については、年度を通して見れば予算上の歳入と歳出がバランスするように、概ね均衡するものですが、『日々』の単位では受払に『ずれ』が発生します。このため、日によって現金不足や現金余剰が発生することがあり、調整を行う必要があります」と説明しています。齋藤 そうすると、先に収入が入ってきて、手元にお金がある状態で支出する時は問題ないですが、税収などがまだ入ってきていないのに支出しなければならない状態になった時に、手元にお金がなくて、払いたくても払えない状態になるわけです。その時、一時的に資金調達をするために発行するのがFB、その中でも財務省証券とか略して蔵券(くらけん)と呼ばれるものです。国としてお金が入ってくる、あるいは出ていくというデコボコについては、国債の発行収入金や償還も関わっていて、国債の発行額は毎月ある程度平準化されているのに対し、国債の償還額は四半期末月 42 ファイナンス 2024 May
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