ファイナンス 2024 May 25国有財産行政の過去・現在・未来こうした引き取り手のない土地の発生を防止するため、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が制定され(令和3年4月)、相続又は遺贈により土地の所有権を取得した相続人が土地を手放して国庫に帰属させることが可能となり、令和5年4月より運用が開始された。この制度においては、相続した土地を国庫に帰属させることを希望する方は、法務局に申請し、その土地が要件に合致するか否かの審査を受ける。国庫に帰属する場合、その土地が農地や森林であれば農林水産省や林野庁が、宅地や雑種地などであれば財務局が管理・処分を行うこととなる。また、帰属に当たっては、土地の管理費として一定の負担金を納付する必要があり、例えば、市街地の宅地200平米であれば約80万円となっている。申請件数と国庫帰属件数は、令和6年1月末現在の速報値で、申請件数1661件、国庫帰属件数117件(うち宅地・その他88件)である。この相続土地国庫帰属制度は、動き出したばかりの制度であるが、国庫に帰属した土地の管理・処分を行う財務局にとっては、多くの土地が帰属することによる管理コストの増加が想定される。このため、必要な予算・定員の手当をさらに進めていきたいが、それと同時に、国庫に帰属した土地の効率的な維持管理を行いつつ有効に活用にする術はないか、帰属した土地を地域のまちづくりのために使えないか、などの検討を積極的に行っていく必要があると考えている。近年、我が国の安全保障を取り巻く環境が不確実性を増す中で、外国人や外国資本による土地の所有・利用に関する懸念・不安が広がっている。こうした状況の中、内閣官房に「国土利用の実態把握等に関する有識者会議」が設置され、同有識者会議の「国土利用の実態把握等のための新たな法制度の在り方について 提言」(令和2年12月)においては、・国境離島や防衛施設周辺等における土地の所有・利用を巡っては、かねてから、安全保障上の懸念が示されてきた。経済合理性を見出し難い、外国資本による広大な土地の取得が発生する中、地域住民を始め、国民の間に不安や懸念が広がっている。・国民の不安や懸念は、当事者以外には、どのような者がどのような目的で土地を取得又は利用しているのか分からないという「情報の非対称性」から生じているものと考えられる。と問題の所在を示した上で、・土地を巡る安全保障上の不安や懸念としては、外国資本等による土地の取得・利用を問題視する指摘が少なくない。しかしながら、経済活動のグローバル化が進展する中、外国資本等による対内投資は、イノベーションを生み出す技術やノウハウをもたらすとともに、地域の雇用機会創出にも寄与するものであり、基本的には、我が国経済の持続的成長に資するものとして歓迎すべきである。・今般の政策対応の目的は、安全保障の観点からの土地の不適切な利用の是正又は未然防止であり、土地の所有者の国籍のみをもって差別的な取扱いをすることは適切でない。・専ら外国資本等のみを対象とする制度を設ければ、内国民待遇を規定した、サービス取引に関する国際ルールであるGATS(General Agreement on Trade in Services)のルールにも抵触する。以上を踏まえ、新しい立法措置を講ずる場合には、内外無差別の原則を前提とすべきである。との見解を示し、今後の方向として、・安全保障上のリスクに適切に対応するためには、まずは、政府が重要な土地の所有・利用状況を確実に把握することが必要である。・仮に、安全保障の観点から、不適切な利用実態が明らかになる、又は、そうしたリスクが顕在化する可能性が高い状況が明らかになる場合には、土地の不適切な利用を是正する、あるいは、未然防止するといった、実効的な枠組みを整備することが求められるとしている。(重要土地等調査法)この提言を踏まえ、令和3年6月に、重要土地等調査法(正式には「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」)が制定された。本法律は以下のようなものである。(3)重要土地等調査法(国土利用の実態把握等に関する有識者会議)
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