ファイナンス 2024 May 21国有財産行政の過去・現在・未来*7) 宿舎跡地については売却の上、東日本大震災の復興財源となった。逆に言うと、これら入居が認められる類型に該当しない公務員については、公務員宿舎に入居することはできない。公務員宿舎は「職務の能率的な遂行」を目的とするものであって、職員の福利厚生を目的とするものではないからである。入居する宿舎についても、希望は受け付けていると思うが、原則として職場の指定による。そして、転勤や退職などの場合には20日以内に退去しなければならない。(相当の事由がある場合には一定の明渡猶予期間が設けられているものの、借地借家法上の借家権などは存在しない。)また、公務員宿舎のクオリティについて、長らく新規建設を抑制してきたため、築50年を経過するような老朽化が著しい宿舎も現役で稼働させなければ需要に応えられず、建設当時の「必要最低限の仕様」となっている。上記私が経験したような宿舎は減少しつつあるが、最新の公務員宿舎でも、エアコン、ガスコンロなどは付いておらず、必要あれば自分で設置し、退去のときには取り外さなければならない。最近は、民間企業や地方公共団体の方が、人事交流として霞が関の中央省庁で勤務されることも多いが、公務員宿舎を紹介すると、「えっ、築40年なの?」、「えっ、空調ついてないの?」など、ほぼ例外なく驚かれる。公務員宿舎を巡っては、かつて事業仕分けで「公務員宿舎のあり方については、速やかに関係省庁間において検討を行い、宿舎の建替えについては、その検討を踏まえ実施することとし、それまでの間、継続案件や東京周辺以外の緊急建替えを除き凍結するべき」という指摘がなされるなど、厳しい批判を受けることが多くあった。国家公務員宿舎の必要性等については、これまで記載したような実情をお伝えすると、ご理解いただけることがほとんどではあるが、それでも国民に誤解を招くようなことは極力避ける必要がある。こうした観点から、比較的地価の高く、公務員の福利厚生だと誤解を招きやすい立地である千代田区、中央区、港区に所在する宿舎は、危機管理要員等が入居するものを除き全て廃止し、今では存在しない*7。平成23年の「国家公務員宿舎の削減のあり方についての検討会」における国家公務員宿舎の削減計画策定以降、5.6万戸の宿舎を削減するとともに、新規の建設を抑制してきたことから、既存宿舎の老朽化が進んでいる。また、宿舎削減計画策定から10年以上が経過し、国家公務員の全国的な人員配置も変わってくるなど、時代が変化し、公務員宿舎もそれにキャッチアップする必要がある。こうした背景の下、令和元年答申において、(1)地域ごとの需給のミスマッチ解消を図ること、(2)住戸規格のミスマッチ解消を図ること、(3)老朽化への対応を計画的に実施すること、(4)緊急参集体制の確保を図ること、という指摘がなされている。こうした方針に沿って、理財局において、公務員宿舎がどの地域で不足しているか、また、余剰が生じているかを把握した上で、引き続き長く使用していく宿舎とそれ以外の宿舎に仕分けし、引き続き長く使用していく宿舎については、長寿命化を図る観点から、壊れてから壊れたところだけ修繕するのではなく、予防保全の考え方に立ち、長期的な修繕計画を立て、それに沿った維持管理を行っている。また、築年数は古いものの立地条件が良いなどを理由に貸与率の高い宿舎は、水回りを中心としたリノベーション工事を計画的に行っている。さらに、特に宿舎不足が顕著である東京23区を中心に、合同宿舎の新規設置を検討し、今後整備を進めるとともに、霞が関に勤務するBCP職員用の宿舎の確保に努めていく。以上の取組等を通じて、地域ごとに必要とされる宿舎を確保し、需給のミスマッチを解消していきたい。近年、マスコミでは「ブラック霞が関」とも言われ、長時間残業などが喧伝されている。実際、国家公務員採用試験申込者(総合職試験と一般職試験申込者数)は、平成24年度と比べ、令和4年度においては1万8356人減少しているなど、国家公務員を志望する学生が減少している状況にある。それに対して宿舎行政ができることは些少ではあるが、法目的に沿いつつ、国家公務員が少しでも働きやすい環境を作るために尽力していきたい。(2)今後の公務員宿舎の方向性
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