ファイナンス 2024年5月号 No.702
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*5) 不動産価格が下落し、当該不動産の時価が相続税を計算する際に用いられた価額を下回る状態になった場合、当該不動産を現金化して相続税を払うより、当該不動産をそのまま物納した方が有利になるため。物納引受件数は平成元年度は102件だったものが、平成6年度には6053件へと増加した。に係る法定の国会報告が省略されるなど、最小限度に縮小されていた。一方、戦争終了後には、陸海軍省の廃止によって旧陸海軍省の大量の財産が大蔵省に引き継がれたほか、インフレ対策としての財産税導入に伴い大量の不動産が物納されたことを背景に国有財産が急激に増加し、こうした財産の管理・処分の必要が生じたため、昭和20年10月に大蔵省国有財産部が設置された。政府は、これらの引継財産の管理・処分については、食料増産、民生安定等のために活用する方針を打ち出したが、原則として一件ごとにGHQの許可を取る必要があったことから、その処分に当たっては制約もあった。昭和40年代になると大都市への人口集中が一層進んだことなどを背景に、都市問題が深刻化するとともに、道路や学校などの公共用地を確保することが困難となってきた。そのため、都市及び都市周辺における未利用国有地はできるだけ都市の再開発に寄与するような形で処理することを基本的な方針とした(昭和47年3月国有財産中央審議会答申「都市及び都市周辺における国有地の有効利用について」)。これにより、従来国有地の売払処分に重点が置かれていたものが、都市部における国有地の売払いを停止し、公的利用により現有の国有地の有効利用を図る方針に転じた。その後、2度の石油危機等を経て国の財政が急速に悪化したことを受け、国有地の処分による税外収入の確保が要請されることとなった。このため、公用・公共用優先の原則を損なわない範囲で売却を促進することとし、地方公共団体に対し、一定期間(原則3年)以内の買受けを勧奨することとし、それを徒過した場合には原則として一般競争入札を行うなど、国有地の有効利用と財政収入の確保の両立を図ることとした(昭和58年1月国有財産中央審議会「当面の国有地の管理処分のあり方について」)。昭和60年前後からのいわゆるバブル経済において不動産価格の高騰が続き、国有地の管理・処分についても関心が寄せられるようになった。都心に存在する資産価値の高い国有地の入札結果が地価高騰の一因となっているとの指摘もあり、昭和62年頃から地価高騰区域内での入札を見合わせるといった対応を行った。なお、こうした指摘を受けた事案の一つとして、旧司法研修所跡地の一般競争入札による売却(昭和60年8月8日)が挙げられる。場所は紀尾井町であったが、その土地の来歴については「東京の地霊」(鈴木博之著 ちくま学芸文庫)に詳しい。(なお、本図書については親友であり国有財産に詳しいN氏に推薦してもらった。)また、平成2年1月の国有中央審議会答申「大都市地域を中心とした今後の国有地の管理処分のあり方について」においては、・未利用国有地が残り少なくなっていることを考えると、大量の未利用国有地の存在を前提として処分の促進を図ったこれまでの方針を今後とも続けていくことは適当ではない・未利用国有地については、国の政策遂行に必要な施設の整備や道路等広域的な波及効果をもたらすものへの活用を優先するとされ、より一層、公用・公共用優先の考え方が重要視されるようになった。一方、バブル経済の崩壊に伴い不動産価格が急落し、相続税の納付に当たり不動産が物納される件数が急増した*5。物納不動産は相続税の金銭に変えて納付されたものであるため、早期の売却処分が求められるものであり、物納財産の売却促進は物納財産が急増した平成6年から平成10年代にかけて国有財産行政の大きな課題の1つとなった。ピーク時の平成11年度には未利用国有地のストックは1.8兆円にも上ったが、売却促進の取組や地価回復による物納減少もあって平成10年代後半には急速に減少(平成18年度0.4兆円)した。平成10年代後半には物納財産の処理に目処がついてきた一方、アジア金融危機等に端を発する景気の深(2)高度経済成長と石油危機(3)バブルの発生(4)平成18年財政制度等審議会答申 18 ファイナンス 2024 May

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