ファイナンス 2024年4月号 No.701
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PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 30ファイナンス 2024 Apr. 85解はどこにも、インターネット上にもない。なので人間の頭で解答を作り出す必要がある。それが経済政策に関わることの楽しさであり、創造性なのだと思います。上田総務研究部長:ありがとうございます。率直な対話は非常に大切ですが、その対話というものを建設的な形で進めていくことが今の時代においては少し難しいかもしれません。SNSを通じたグルーピングが起こりやすい中で、お互いの素朴な疑問をもとにした率直な対話が起こりにくくなってしまっているのかもしれないとお話を聞きながら思いました。『マクロ経済動学』のような教科書を一通り読んだ上で、素朴な疑問や考えたことについて、率直に議論をするということがお互いにとって必要だと思いました。細江客員研究員:昨今の財政政策の動向も踏まえて、終章で述べられている「マクロ経済学的「常識」の無批判な援用」というご指摘が非常に印象に残りました。根っこがないまま日本に持ち込まれて、煮詰められ過ぎてしまった概念を何も考えずに政策立案に持ち込んでいる現状に対する強烈な指摘だと感じます。楡井教授:特に日本の文脈においては、財政による景気刺激策の策定の仕方がほぼ脊髄反射になってしまっていると思います。一度脳までいって咀嚼して、適宜の状況に応じた施策が出てくるのではなく、規模ありきで反応しているように感じます。そして、その脊髄反射が「マクロ経済学」の名の下に行われてしまうところが、やはりマクロ経済学者としては一番納得がいかないところです。やるのであれば、それはマクロ経済学とは全く異なる理屈をつけてやってほしいと思います。学問というものが何か勿体を付けるための定型的な儀式になってしまっているとすれば、それは学問の対極にあるものだと思っています。細江客員研究員:日本の経済学者よりも欧米の経済学者の方がそういった発信の機会が多いように思います。一般の新聞や雑誌などでも読者に分かるような言葉で経済学者が声を上げる機会がある一方で、日本においては、アカデミアが少し閉鎖的になっているようにも感じますが、いかがでしょうか。これは同時に、全く同じ指摘が財務省をはじめとする日本の行政組織にも当てはまっていると思います。楡井教授:まさに経済学アカデミアの反省点だと思います。一つにはスピードが遅いと思います。何か事態が発生した時に、研究者が意見や提言を出すには賞味期限というものがあって、半年後では遅すぎるということがしばしばあります。欧米の経済学会が社会からの関心を惹きつけることができているのは、やはり十分に素早いタイミングで声を出せているからだと思います。数年後に事態を回顧して分析した研究は山ほどありますが、同時代で政策に関与できるような形での発信がすごく少ないと思います。そこは海外の研究者を見習うべきですし、先ほど行政官も経済学のバックグラウンドを持っていた方が良いと言いましたが、学者の方も普段から実務のことを知っていて、足下の経済のことをわかっていないと、いざ現実に事件が起きても、すぐに適切な発信ができないと思います。上田総務研究部長:行政官のマインドセットも少しずつ変えていく必要がありますし、アカデミアの方々には今後とも建設的な議論に参画していただければ大変ありがたいと思います。本日はありがとうございました。

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