ファイナンス 2024年4月号 No.701
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PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 30ファイナンス 2024 Apr. 83のが財政であり、時間的スパンが景気循環とは全く異なるものであると考えています。上田総務研究部長:今後、どのようなご研究を行っていくことを考えておられるでしょうか。楡井教授:景気循環について、『マクロ経済動学』を書けば気が済むと思っていましたが、書いてみたら、さらにやりたいことが次々と出てきており、かつ、共同研究の輪も広がっているので、この景気循環論をもっと完成させたいと思っています。『マクロ経済動学』は日本語で出版しましたが、英語でも包括的な景気循環論の本を書きたいと思っています。あとは、この本を書いてみて、自分はやはり日本経済に関心があるということを改めて感じました。エコノミストの小峰さんが自分の趣味は日本経済とおっしゃっていて、とても羨ましいと思いました。今後の日本経済について非常に関心がある一方で、今までは理論を中心に研究していて、先ほど述べたようなプラクティカルな経済学を研究する機会はあまりありませんでした。そのため、今後は政策に直接役立つようなプラクティカルな経済学にも取り組んでいきたいと思っています。ただ、こういったことを得意とする方がたくさんいらっしゃる中で、自分が貢献できるかはわかりませんが、日本経済に取り組んでいきたいという思いは強くあります。もちろん実務家はプラクティカルな経済学に関心があると思いますが、理論やディシプリンの背景を持たないままやろうとすると道に迷ってしまうと思います。理論や数理の根っこに精通した楡井教授の貢献が期待されている領域は広く存在するのではないかと思います。楡井教授には、2015年から2017年の間、財務総合政策研究所において仕事をしていただいたことがありますが、実務と研究の境目に存在している財務総研4 財務総研に期待する役割上田総務研究部長:という存在は、楡井教授をはじめとした理論家であり、日本経済に関心のある経済学の研究者と、どのように協働していくことが望ましいでしょうか。楡井教授:実務家も学者もどちらも業務や研究に忙殺されてしまっていますが、両方の組織で実務的な経済研究が評価される土壌があると良いと思います。また、研究者にとってはそのキャリアの中で、実務の場と行き来することがとても良い経験になると思います。自分自身、財務総研で過ごしたのは本当にありがたい経験でした。言葉で言い表すのはなかなか難しいですが、アカデミアしか知らない状況と比べると、2年間でも実務に触れることができたのは、全く差があると自分では感じています。ひょっとすると、同じことが行政官や実務の方にも言えて、例えばアカデミアでは博士号をとることを非常に重視するわけですが、これはやはり、自分の責任において、まとまった論考を博士論文として書くということを経験することの大事さを研究者は身に沁みているからだと思います。これは多分2、3年はかかることですが、その経験がある実務の経済分析家と、経験がない分析家では違いが出てくると思います。できれば20代から40代にかけて、お互いに別の場所に行ける機会が複数あるようなキャリアパスを作ることが出来るととても良いと感じます。上田総務研究部長:実際に、アカデミアのバックグラウンドをお持ちの方が財務省の中の組織に来たことによる気づきとして、印象に残っていること、視点が異なると感じたことはありますか。楡井教授:自分にとっては財務総研の経験があったからこそ、省庁という組織がどのように動いていて、政策というものがどのように制度的に設計されているものなのかということが身をもってわかりました。研究者からは数式の中の一変数として捉えられる政策というものを、人間がやっているところを目の当たりにするのが新鮮でした。モデルの中では単なる変数

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