444ていきません。彼らにとっては第一原理そのものが重要なのではなく、通底するディシプリンが事実解明的に現実を説明できることを重要視していたのではないでしょうか。そういう意味では、「原理主義」というよりは論理実証主義と言えると思います。昨年11月に、初めて、和書『マクロ経済動学』をご出版されました。早速、拝読させていただきましたが、経済学のあり方そのものや経済学を政策にどう活かすのかといった射程の長いテーマについて、非常に深い考えを述べておられて、今までの日本になかった本だと感じました。研究者のみならず、行政官にとっても重要な視点や気づきがあるのではないかと思います。まずは、執筆における動機や問題意識について教えてください。楡井教授:マクロ経済理論の大きな課題の一つに、全要素生産性の中身の解明があります。経済成長理論も景気循環理論も、標準理論の大元に全要素生産性があり、それが市場の外の要因によって変動したり成長したりすることで景気循環や成長が起こるとされています。この仮説は、マクロ経済の重要な変数であるGDPや雇用、賃金、金利、消費と投資などの動きを整合的に説明できるという点で大変優れています。しかし、一つ不満な点は、成長や循環の根本原因が経済の外からやってくると仮定されていて、それ自体の説明やとるべき政策の議論に結びつかないことです。多くのマクロ経済学者が長年この問題に取り組んできました。私も、景気循環論の文脈において、このような研究に取り組みたいと思いました。上田総務研究部長:経済学を勉強していると、景気循環や経済成長の源泉を突き詰めていった先に、結局、理論では説明できない「市場の外からのショック」という要因に■り着いてしまうことが多く、経済学という学問に対して、 78 ファイナンス 2024 Apr.2 『マクロ経済動学』上田総務研究部長:フラストレーションを感じる人も多いのではないかと思います。楡井教授:日本の学生さんはなかなかそういう不満を言いませ4と思います。景気循環んが、普通に考えればしらけるに関しては、近年、コロナショックをはじめ、実際に外からショックがやってくることが多いので、まだ理解できなくもないかもしれませんが、経済成長論については、その要因がすべて説明できない外部の要因だと言われてしまうと、不満を感じると思います。上田総務研究部長:これまでは研究者として、学術論文を書くということに注力されていたと思いますが、今回はじめて日本語での著書を刊行するにあたって、特にどのような人たちに読んでもらいたいと考えられたのでしょうか。楡井教授:日本語で書かれた一般書ではあるものの、やはり専門的な本ではあるので、基本的に念頭にあったのは、これまで仕事のうえで関わってきたマクロ経済学に関係する方々で学界の外の人たちということになります。特に、現代のマクロ経済理論の基本的な構造や社会に対する含意、統治についての見方といった、マクロ経済理論に対するメタレベルな関心を持っている方に伝えることが重要だと思いました。具体的には、上級学部生や、経済政策担当者、シンクタンクや企業の調査部門で働いている方などです。また、隣接する学問分野の研究者。特にこの本は数学を扱うので。理科系の学生さんや研究者で、経済学になんとなく関心を持っているという方には、複雑系研究を通じて多く出会い、話をしてきたので、彼ら彼女らに伝わるようなものが書ければ、と思っていました。ある程度の専門性を前提に、理論の持つ数理的な構造はごまかさずに書こうと思ったので、少し難しくなってしまいましたが、それら
元のページ ../index.html#82