ファイナンス 2024年4月号 No.701
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トランプ政権バイデン政権(出所)米政府発表資料、Jetro記事ほか各種報道から一部抜粋時期2018年鉄鋼・アルミニウムへの追加関税賦課対中追加関税(301条関税)の賦課2019年華為技術(ファーウェイ)をエンティティ―・リストへ追加301条関税リスト4A発動、約7割の対中輸入品が追加関税の対象に2020年中国人民解放軍協力企業に対し、証券投資等を禁ずる大統領令を発令2021年半導体等安全保障上で重要な製品のサプライチェーン強靭化の大統領令を発令2022年CHIPSプラス法およびインフレ削減法(IRA)が成立中国を念頭に先端半導体の輸出管理強化を発表2023年ファーウェイへの輸出許可を全面停止米国から懸念国への対外投資を規制する大統領令を発令具体的措置【図表1】中国を念頭においた主な措置*1) JETRO「トランプ前大統領、政権奪取後に米国の労働者を守るために実施する10項目を発表(2024年2月7日)」、トランプ氏陣営HP*2) ロイター「トランプ氏の関税案、消費者負担拡大させる 米財務長官が指摘(2024年1月11日)」*3) 日本総合研究所が試算。国民負担額は、連邦政府の関税収入の対名目GDP比2024年米国大統領選まで残り約半年となった。返り咲きを目指すトランプ前大統領は米国第一主義を掲げ、もしもトランプ氏が大統領に返り咲いた場合には、米政治が大きく変化すると各レポートにおいて指摘されている。外交、通商政策に関してトランプ氏は、既に「米国労働者を守るための施策*1」として追加関税導入等を宣言している。特に中国に対しては最恵国待遇撤回等の一段厳しい輸入制限を主張しており、中国からの輸入が減少する可能性がある。またこうした米中間の対立は地政学リスクを高める可能性がある。本稿では、前トランプ政権時代から現在のバイデン政権における、中国を念頭においた通商や産業政策上の主な措置を振り返り、経済への影響を考察してまいりたい。米国では、【図表1】に例示するように、前トランプ政権発足以降、中国を念頭においた通商、産業政策上の様々な措置がとられている。2018年の追加関税賦課から顕在化した米中対立だが、その後も追加関税の対象拡大が行われ、バイデン政権下においても、サプライチェーン強靭化のための政策の一環として、先端半導体等特定分野における対外投資規制が着手されている。トランプ政権下において特徴的な施策は中国輸入品に対する追加関税の急速な拡大である。【図表2】に示すとおり、トランプ政権下において米国の対中国平均関税率は急上昇している。バイデン政権下においても高止まりが続いており、対中国以外の平均関税率と比較するとその乖離が大きくなっている。米国の関税収入は、【図表3】に示すとおり、2018年から2019年にかけて急上昇している。2020年以降は、新型コロナウイルスの影響による輸入量の増減に合わせた増減がみられるが、足元は減少している。足元では減少傾向にあるものの、2017年と比較すると関税収入も高水準が続いており、こうした関税の増加は価格転嫁により消費者が負担するか、企業の利益が減少するかという形で米国民が負担することになる。トランプ氏による追加関税導入についてイエレン米財務長官は、「米国の企業や消費者が頼りにしている様々な商品のコストが上がるのは確かだ。」と発言している*2。例えば日本総合研究所の試算によると、米国の対中関税が+10%ポイント上昇する場合、物価上昇による国民の負担はGDP比で0.1~0.2%ポイント増加する*3。米国民の商品選択ないし企業の輸入相手国の選択に影響を与えそうだ。 68 ファイナンス 2024 Apr.海外経済の潮流 150トランプ政権時から振り返る対中規制と 1.はじめに2.米中対立の動向大臣官房総合政策課 海外調査係 廣元 未希3.トランプ政権時の関税賦課経済への影響

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