五島さんの「石川の皆さん、今大変でしょうけども、私も頑張るから、この震災に負けずに、元気でいきましょう! 一歩一歩前に進みましょう!」という気持ちが全身に現れていましたね。沿道からは「石川、がんばれ」と声がとび、石川というユニフォームの文字が揺れるたびに、テレビで応援していた私は胸打たれて涙がこぼれて仕方がなかったのです。これがスポーツの力です。五島さんはいつもならもっとスマートな走りをします。が今回はがむしゃらな、魂の走りでしたね。五島さんの走りを見て、自分ができることで被災した方々を元気づけられたらいいのだな、という気持ちを強くしました。NHKがこの日の夜8時55分の全国ニュースの中で伝えたのが、五島さんの走りとコメントを中心にした映像でした。やはりそういうことなのです。スポーツというのは競技だけではなくて、その走る姿が皆さんを明るくするのだ、そういうことを感じましたね。振り返ってみると、阪神淡路大震災が29年前でした。当時のオリックス・ブルーウェーブは「がんばろうKOBE」を合言葉にチームが一つになって、95年にリーグ優勝しました。96年には日本シリーズでも勝ったのです。阪神淡路大震災の時も、野球で皆さんが元気づけられたことを思い出しました。2011年の東日本大震災のときには、翌年の箱根駅伝で、当時「二代目・山の神」と言われていた福島県いわき市出身の柏原竜二さんが、5区の登りで自分の区間記録を破る素晴らしい走りをしたのです。やはり、被災した東北のことを思って自分の走りで元気づけたい、ということで、寒い中、あの5区を走っていたときの表情は忘れられませんね。独走状態であり、競っているわけではなかったのに、柏原竜二さんが阿修羅のごとき顔をして力走していたのです。あの表情をすごくよく覚えています。一緒にみんな頑張ろう、というエールを送る走りでしたね。あのときのインタビューが私には忘れられなかったのです。柏原竜二さんは自分の区間記録を破った後に、「私の苦しみは1時間ちょっとです。福島の人の苦しみに比べたら大したことない」ということを言われて、これは本当に響く、すごい言葉だな、と思いました。私もマラソンをやっていましたけど、考えてみたらマラソンだって2時間半の苦しみでしかないのです。被災された方々の気持ちとか葛藤とか苦しみというものはずっとあるわけですから。それを柏原さんが言われたことを思い出しましたね。2012年はサッカーワールドカップでなでしこジャパンが決勝戦で強敵アメリカに勝って優勝しました。あのときは、後から報道で知りましたが、震災の様子をビデオで見て、頑張ろう、という気持ちで試合に臨んだそうです。今年は5月17日から神戸で世界パラ陸上競技選手権大会が開かれます。スキーでも活躍された車いすの村岡桃佳さんや日本の義足陸上競技選手初のメダリストである山本篤さんをはじめ、本当にいろいろな選手たちがいらっしゃるのですけれども、選手たちとは「私たちにできるのは、たくさんの応援してくださる人たちに元気を与える精一杯のパフォーマンスをすることだよね」と話をしています。私はこの大会の組織委員会会長をやらせていただいています。しっかりと準備して進めていますが、神戸市の方々が本当に一生懸命です。「神戸はたくさんのボランティアの方々からサポートを受けて阪神淡路大震災を乗り越えてきた街だから、神戸の人は優しいよ」とみんな言うのです。 60 ファイナンス 2024 Apr.3. 阪神淡路大震災: がんばろうKOBE4. 東日本大震災1: 箱根駅伝での柏原竜二の力走5. 東日本大震災2: 6. KOBE2024世界パラ陸上競技なでしこジャパン優勝選手権大会
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