ファイナンス 2024年4月号 No.701
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*24) 「述語制言語の日本語と日本文化」金谷武洋、2019、p292*25) 「一汁一菜でよいと至るまで」土井善晴、新潮新書、2022*26) 金谷武洋、2019、p293*27) 「古き佳きエジンバラから新しい日本が見える」ハーディー智砂子、講談社α新書、2019,p36*28) 「過剰可視化社会」与那覇潤、PHP新書、2022,p57*29) 2023年度の学習指導要領に伴う科目再編で、国語が「論理国語」と「文学国語」に分けられて「論理国語」重視が打ち出された*30) 「日本語の歴史」山口仲美、岩波新書、2006、p219−20ていた。アメリカ人にしっかりと理解されていた。盛田氏の英語は、私に英語はそれを使いこなすためには上手である必要はないということを教えてくれた。なお、私の英語も褒めたものではなかった。私は、退官した翌年、ビジネス・スクールの卒業35周年の同窓会に行ったが、その時のパーティーの後、家内がホテルに帰ってきて、今日は面白い話を聞いたという。私の学友が、タカシつまり私(崇)の英語は“difficult”だった(難しかった)と言っていた、あなたは卒業式で表彰されるほどだから英語の達人かと思っていたけれどもそうでもなかったのねと言ったのである。まあ、私も自分が英語の達人とは思っていなかったが、私の英語が“difficult”だったと言われたことには考え込んでしまった。そこからの結論は、下手な英語でも相手が一生懸命、理解しようとしたから“difficult”だったんだということである。当時、ビジネス・スクールの米国人学生が理解しようとしていた日本の会社の経営手法など、日本語で説明しても簡単に説明できることではない、それを私がつたない英語で説明して、相手はそれを理解しようとしたのだから大変だった。ただ、相手は是非とも日本の会社の日本的経営手法の「秘密」を知りたいと思っていたので、一生懸命理解しようとしたので“difficult”だったということである。そして、そんな私のつたない英語での説明は、卒業式で全学生の前で表彰するに値するものだったということである。ここでもう一つ、日本人が英語を日本語と同じ低い声でしゃべっても通じないということがある。それは、盛田氏が「大きな声で明瞭に発言された」という点についてである。これも金谷氏が指摘していることだが、日本語は遠くに届かない低い声で話される(周波数125-1500ヘルツ)*24。それに対して、英語は高い声で話されている(2000-15000ヘルツ)。そこで、日本人が日本語をしゃべる調子で話したのでは、英米人にはまともに聞いてもらえないのだという。ちなみに、フランス人も比較的低い声で話す(1000-2000ヘルツ)。フランス料理のテーブルマナーには、他の席の邪魔にならない程度の低い声での会話というのもあるのだという*25。その、フランス語は、かつては外交の言語として花形だったが、今やビジネスの世界ではすっかり英語に席巻されてしまっている。今日、フランス語を駆逐して、プレゼンスをあげてきているのが、高い声で話す英語や中国語だ。中国語は英語やイタリア語に次いで高い声で話す言語なのだ(500-3000ヘルツ)*26。なお、韓国語も、北朝鮮のアナウンサーのニュースなどを聞いていると、相当に高い声で話している。日本人も、それに負けないように大きな声で話すことが、国際社会では必要だと言えよう。「敵を知り、己を知れば、百戦して殆うからず」となるためには、そんな点にも気を配ることが必要なのだ。なお、英国人は初対面の人ばかりのグループでも初めから和気あいあいになるのが普通なのに対して、フランス人や日本人はそんなことはないと言う*27。小さな声で話すということは、そんな面にも関係しているといえそうだ。日本語のこれからの戦略最後に、英語が影響力を強めている世界の中での日本語のこれからの戦略について述べておくこととしたい。日本語での会話は、ハイコンテクストな会話*28だといわれる。多くの構成員で構成される「世間」を前提とした意思疎通がそんな会話を生んでいると言える。しかしながら、そんな会話をするのは日本人だけなので、国際社会ではそんな日本流の会話は誰も相手にしてくれない。それは、日本語の弱点というべきものなのだ。これからは、そのような日本語の弱点を克服するための教育、経営戦略、外交戦略を組み立てていかなければならない。そんなことから、日本語の教育でも、「主語」を使って論理的に主張を展開する訓練が必要だということで打ち出されたのが、文部科学省の論理国語*29の重視だといえよう*30。アメリカでも、小学校の時代から、スピーチの訓練しているとのことなので、そんな訓練が必要だというのはもっともなことである。そして、英語教育に関しては、2020 50 ファイナンス 2024 Apr.

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