ファイナンス 2024年4月号 No.701
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*22) 竹下登元総理が有名*23) 「愚直に考え抜く」岡田光信、ダイヤモンド社、2019、p192、194 ファイナンス 2024 Apr. 49日本語と日本人(第1回−総論)違っていた場合の問題についても述べておくこととしたい。先にみたように、日本の会議では「世間」の中での意思疎通ということで明確な反論が行われないのが一般的だ。そこで、議論が煮詰まらずに結論が出ないことが多く不効率だと言われるのだが、そんな会議をまとめるのに使われるのが、根回しや「言語明瞭、意味不明」*22という日本流の弁論術だ。そして、そのようにしてまとめられる結論は、論点に曖昧な部分が残っていても全員の異議がないという形になることが多い。それは、個人の責任の所在が曖昧になることを意味している。責任の所在が曖昧なので、失敗した場合に個人に責任を問うことが難しくなり、「水に流す」形での手じまいが一般的ということになる。しかしながら、そんなことは国際的には通用しない。国際的な会議では、アメリカ人だけでなく中国人も韓国人も、誰かの発言に異議があれば、すぐに面と向かって反論する。そして、そのような議論の末に出された結論が間違っていた時には「水に流す」ことなどとんでもないということになる。日本流の「水に流す」スタイルは、説明責任を果たしていないとして違和感を持たれるだけでなく非難されることにもなるのだ。岡藤正広伊藤忠商事会長が、2023年5月号の「文芸春秋」に寄稿された「日本復活への道」によると、中国人は商魂したたかで、韓国人は負けず嫌い。日本人の謙虚さは美しいけれど、外国からはただのお人よしと見られている。主張や競争を避けてしまうのは美徳ではないとのこと。岡藤会長は、日本人と中国人、韓国人の違いに関して、日本では子供に「人に迷惑をかけるな」と教えるが、中国では「人にだまされるな」と教える。韓国では「人に負けるな」と教えるということを紹介されている。思うに、日本で子供に「人に迷惑をかけるな」と教えるのは、主語を使わない日本語が「世間」の中での言葉で、気遣いを優先する言葉だからだろう。それに対して、主語を使う中国語や韓国語は、まずは自分があっての言葉なので、騙されるな、負けるなと教えるのだろう。英語を使いこなすようになるためにでは、そのように国際的に通用しない日本語の中にいる日本人が、今後、国際社会で活躍していくためにはどうしたらいいのだろうか。まず一つ考えられることは、日本語の殻から脱却して英語を使いこなせるようになっていくことだ。財務省のOBで宇宙デブリを除去する会社「アストロ・スケール」を立ち上げた岡田光信氏は「愚直に考え抜く」という本*23の中で、今日、グローバルな「仕事の言語」は、ほとんど英語になっている。情報も技術も人材も資金も、すべてにおいて英語になっている。世界の情報の9割以上が英語になっている。そして、英語で動けば、より大きく、より早く動くことが出来る。仕事の処理速度の実感値で、英語は日本語の3倍速だという。岡田氏がかつて経営していたIT会社は、アジアを営業範囲にしていたが、社内言語が日本語だったので、いちいち技術資料を英語にしなければならず、英語に慣れていない社員が顧客とのやり取りに苦労してタイムリーな情報提供、顧客の心をつかむこと、そのどれにも失敗した。とにかく、英語で仕事をしないといけないという。岡田氏には、私も直接お話を伺ったことがあるが、日本人にも国際的にこんなに活躍している人がいるんだと強い印象を受けた人である。最近では、グローバル企業で英語を「公用語」化する会社も出てきている。そんなことを言っても、自分は英語は苦手だから、英語を使いこなすことなどできないといわれそうだ。しかしながらそれは、日本人が上手な英語でなければいけないと思い込んでいるからだ。それと、日本語と同じ調子で低い声でしゃべっても通じないことを知らないからだ。英語で仕事をするには上手である必要はない。通じればいいのだ。それなのに、学校では英語が上手になることばかりを教え込まれる。かつて、スタンフォード・ビジネス・スクールで、日本の経営手法を研究するサークルに来てもらったソニーの盛田氏の英語は、ありていに言えばブロークンで発音もよくなかった。これなら私の方が上手だと思ったほどだった。しかしながら、盛田氏にはビジネス・スクールの全学生を対象に大講堂で講演をしてもらい、学長との昼食会もしていただいたが、大きな声で明瞭に話され、アメリカ人のジョークにもしっかりと受け答えをされ

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