ファイナンス 2024年4月号 No.701
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ファイナンス 2024 Apr. 33はじめに服部 特別会計(特会)はしばしば理解が困難だと指摘されます。国債を理解する上で、例えば、国債整理基金特別会計を理解する必要がありますし、復興債やGX経済移行債(GX債)など、特別会計と密接な関係を有する国債を理解する必要もあります。そこで、今回は、国債に造詣が深いだけでなく、主計局法規課でのご経験もある齋藤通雄前理財局長へお話を聞くことで、特別会計の理解を深めたいと思います。特別会計については、批判的に取り上げられることも少なくありませんが、いかがでしょうか。齋藤 ご存知の方も多いかと思いますが、20年くらい前に、塩川正十郎さんという財務大臣が「母屋でおかゆをすすっているときに、離れですき焼きを食べている」という表現で、特会を批判したことがありました。「母屋」は一般会計のことで、国の予算のメインのところです。一般会計では、借金を減らさないといけない、国債発行を減らさないといけない、という中で一所懸命歳出を切り詰めている。それを「おかゆを本インタビューの目的我が国における国債制度を理解しようとするにあたり、特別会計についての理解が必要になることが少なくありません。もっとも、特別会計は複雑であり、独力での理解が困難だと指摘されることも少なくなく、さらに、初学者に向けた文献がないのが実態です。本稿は、国債を専門とする経済学者である服部が、国債制度だけでなく、日本の財政制度についても造詣が深い、財務省前理財局長(現在は野村資本市場研究所研究理事)の齋藤通雄氏にインタビューし、特別会計の理解を深めることを目的としています。なお、本インタビューの活字化等にあたり、東京大学経済学部の安斎由里菜さんと新田凜さんの協力を得ました。すすっている」という言葉で表現しました。これに対し、この後お話ししますけど、「離れ」である特会は、特会としての固有の収入もあるので、一般会計ほど切り詰めずにゆとりのあるお金の使い方をしており、そちらをもっと切り詰めなければいけない、というのが当時塩川大臣が言っていたことです。このように、特会に対してネガティブなイメージがある方も多くいらっしゃると思います。服部 私は当時まだ大学生でしたが、大臣の発言は当時マスコミでもかなり報道されていた印象です。特別会計とは服部 まず少し教科書的なことに触れると、財務省が発行している『特別会計ガイドブック』などに記載されている通り、政府の会計には一般会計と特別会計(特会)があります。特会を設置している理由は複数あると思いますが、大きな理解としては、別の財布にしたほうが分かりやすいから、と理解しています。齋藤 そうです。国の予算について、若干大雑把にはなりますが嚙み砕いてお話をすると、国が1年間にどういうことに、いくらくらいお金を使うのか、それに必要な財源がどういう形で入ってくるのか、というのを全体で整理したものが予算です。国がどういう政策にどれくらいお金を使うのかについては、その全てが一つの表の形で整理されていたほうが、お金が使われている部分と使われていない部分を比較しやすく分かりやすいというのは確かです。全部が一つにまとまっている、すなわち一覧性・総覧性が確保されている方が分かりやすい、というのが、基本的な考え方です。『特別会計ガイドブック』にも記載がありますが、「予算単一の原則」、つまり、できるだけ一つの表の中で整理しましょう、という考えがベースとしてあるわけです。ただ、何でも一つの表の中にまとめてしまう野村資本市場研究所研究理事 齋藤 通雄/東京大学 服部 孝洋齋藤通雄氏に聞く、国債を巡る資金の流れと特別会計の基礎(前編)

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